AI時代の医療DXは「検査データ」から始まる!? ―検査が広げる医療の可能性

AI時代の医療DXは「検査データ」から始まる!? ―検査が広げる医療の可能性

世界的な人口増加や高齢化の進行により、医療需要は拡大するとともに、医療の内容も高度化・複雑化しており、医療従事者の確保や医療経済性の向上が喫緊の課題となっています。そのため、疾患の兆しをいち早く捉える早期発見や予防への期待が高まっています。

その実現の切り札として期待されるのが、AIによる医療DXです。しかし、医療DXは新たな技術を導入するだけで実現するものではありません。AIがその力を発揮するには、元となる質の高いデータが欠かせません。

いま、医療DXの出発点として、「検査」とそこから得られる「データ」の価値が見直されています。

※ 当記事は、東洋経済新報社『東洋経済ACADEMIC/INNOVATIVE 次代の教育・研究・ビジネスモデル特集 明日の「変革」を担うAI・DXと人間の力』の一部、及び取材内容から編集したものです。

 

    目次

    検体検査×AIで生み出す新たな価値

    血液や尿などを分析する検体検査は、“医療の入り口”とも言われ、その後の診断や治療などの意思決定に欠かせないものです。シスメックスは、50年以上にわたり、この検体検査を中心に医療の現場を支えてきました。現在、シスメックスの検査機器は世界190以上の国や地域で使われています。

    ここから生まれる膨大な検査データを、適切な管理のもとで活用するための基盤整備を進め、AIと組み合わせて新たな価値提供へとつなげる技術開発を推進しています。

    その一つが、検査データや、健康状態に関わるその他のデータをAIで解析し、一人ひとりの病態や経過を予測する予兆検知の研究です。

    検査データから未来を予測する

    ~慢性骨髄性白血病の研究事例~

    シスメックスは、順天堂大学と共同で「慢性骨髄性白血病(CML)」の早期診断を目指し、AIを活用した研究に取り組んできました。その研究の過程で、日常診療で取得される血液検査データを統計学的に解析することで、CML患者さんの治療反応を予測できる可能性があることが分かってきました。

    現在のCML治療では、最初に使用した薬剤で十分な治療効果が得られない場合や、副作用によって治療の継続が難しい場合に、別の薬剤へと切り替えることが一般的とされています。しかし、治療開始前に治療反応を予測できれば、患者さんごとにより適切な治療選択を支援できる可能性が生まれます。

    一人ひとりに合わせた治療は、身体的・精神的・経済的負担の軽減や、QOL(Quality of Life:生活の質)向上につながり、さらに、治療や薬剤の変更を減らすことができれば、医療費の抑制にも期待が広がります。

    CML研究者の想いと展望

    検査データという「メッセージ」を通して、患者さんの人生に向き合う

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    鈴木 行人

    シスメックス株式会社
    先端技術開発センター リサーチマネージャー
    医学博士

    研究では大量の検査データを扱いますが、私はこれを体内の変化を伝える「患者さんからのメッセージ」だと考えています。その一つひとつを科学的に読み解き、そこから得られた知見を診断や治療の形で患者さんに還元する。これが研究者としての私の使命だと思っています。

    そのためには、患者さんの状態や治療経過を捉える「臨床」の視点と、その背景で何が起きているかを掘り下げる「基礎研究」の視点の両方が欠かせません。検査技術を軸に、医療現場と研究の双方に深く関わってきたからこそ、この二つの視点を一つの研究の中でつなぐことができる。それが、AIやデータだけでは生み出せない価値につながると考えています。

    CMLは、病態のメカニズムが解明されており、適切な治療で長期生存が可能な疾患になりました。しかし、治療の負担や苦痛がなくなったわけではありません。だからこそ、治療だけでなく、QOLの向上という視点が医療現場では求められています。検査データを通じて患者さん一人ひとりのメッセージを読み解き、治療やその先の人生に寄り添うこと。本研究を通じて、そうした医療の次の一歩に貢献していきたいと考えています。


    今回のCML研究のように、質の高い検査データとAIを組み合わせ、病態の変化や治療反応を予測する「予兆検知」のアプローチは、さまざまな疾患領域への応用が期待されています。

    生きていくうえで誰もが必要とする医療、そしてその入り口となる検体検査。

    私たちシスメックスは、この検体検査から得られる信頼性の高いデータが、これからの医療DXの出発点になると考えています。
    今後も、医療DXを加速させ、一人ひとりのヘルスケアジャーニーを支えるために、研究開発に挑み続けます。

    CTO’s View
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    吉田 智一

    シスメックス株式会社
    取締役 常務執行役員 CTO
    薬学博士

    信頼できるデータと「思いやり」が導く医療DXの未来

    検体検査から得られるデータは、発症前の段階も含めて身体の状態を数値で捉えることができ、医療における意思決定を支える重要な判断材料です。AIと組み合わせることで、疾病リスクの予測や個別化医療の実現など、その価値はさらに広がっていくでしょう。
    ただし、医療DXにおいて最も重要なのは、AIそのものだけではなく、その前提となるデータの信頼性です。人の命に関わる領域である以上、ノイズや誤りを含むデータは適切な判断を妨げてしまいます。

    また、どれほど質の高いデータを用意しても、患者さんの状態や検査結果を踏まえ、最終的な判断を下すのは人間の役割です。だからこそ、医療従事者が培ってきた「暗黙知」を共有財産として可視化することも重要です。その思考プロセスを言語化・データ化し、AIが扱える形に変換することで、誰もがアクセスできる知識として蓄積していく必要があります。

    私がAIに期待するのは、効率を追い求めることだけではなく、人を思いやり、最適な支援を行うことです。こうした技術と人の力を掛け合わせながら、検査の価値を広げ、一人ひとりの人生に寄り添う医療を形にしていくこと。それが、私の役割だと考えています。

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