シリーズ|デジタル医療 vol. 2
「住み慣れた街・住まいで、病気とともにありながらも自分らしく、豊かに人生を過ごしたい」——そんな願いに応えるために、急性期から回復期、慢性期の治療、そして在宅ケアに至るまで患者さんのヘルスケアジャーニーに関わるさまざまな医療従事者間の連携強化がより重要となっています。シスメックスのグループ会社 ディピューラメディカルソリューションズ株式会社(以下、「ディピューラ」)代表取締役社長の岡田 正規が、デジタル技術による病院と地域の連携システムで、持続可能な地域完結型医療の実現にチャレンジするディピューラのいまを紹介します。
病院看護師と訪問看護師との“看看連携”に着目する理由
ディピューラで、病院と訪問看護の連携を支援するプラットフォーム事業を推進する岡田は、中核病院と在宅ケアの連携における課題について、こう話します。
「“退院”と言えば、花束をもらった患者さんが笑顔で見送られるシーンを思い浮かべる人もいるかもしれませんが、慢性疾患の患者さんにとっての退院は、急性期を乗り越えた後の、病気とともに生きる新たなステージのスタートです。これからの医療は、病院から地域へのリレーをいかに切れ目なく行っていくかが重要で、その課題解決のカギとなるのが、病院看護師と在宅ケアを支える訪問看護師との“看看連携”であると考えています」
「看護師は、医師と連携して患者の治療状況や身体状態を理解しつつ、患者さん本人や家族の希望にも寄り添ってくれる全人的医療※1の要となる存在です。しかし病院看護師は退院後の在宅ケアの現場が見えにくく、患者さんの退院後の希望に沿ったケアの提供が難しい環境になっています。地域の訪問看護師は、本人やご家族の生活環境や価値観に寄り添ったケアを提供する一方で、専門性の高い病院との連携が不十分なため、高度なケアの提供が難しい現状があります」
看看連携の重要性を初めて実感したのは、ストーマ(人工肛門)の患者さんに対する病院と在宅ケアの双方の現場に立ち会ったときだと岡田は語ります。
「手術によって造設されたストーマのケアには高い専門性が必要ですが、皮膚・排泄ケアにおける認定看護師の多くが急性期病院に属しており、地域には不足しています。退院後、訪問看護師から在宅ケアにおける多くの技術的相談が病院に届く中で、現状はその連携が効率的にできる仕組みがありません。さらには、退院後は患者さんの体型や生活の変化によって、在宅特有の問題が起こりやすくなるため、病院側は退院後の環境を見越したケアを考える必要性を感じておられます。病院と地域が、お互いの環境と強みを理解し合い、病院での治療と自宅での療養生活を切れ目なくつないでいく橋渡しができてはじめて、患者さんは安心して自宅に戻ることができることを知り、看看連携の重要性を痛感しました」
※1 全人的医療:患者さんの身体的な健康だけでなく、心理的、社会的側面も含めて総合的にケアする医療のこと。患者さんの全体像を理解し、一人ひとりのニーズに応じた包括的な治療やケアを提供すること。
デジタル技術が支える患者さん中心の医療
医療情報の共有や医療従事者間の連携強化といった課題を解決する新たな社会システムとして期待が寄せられる「医療DX」。
厚生労働省はその目的を「より良質な医療やケアを受けられるように、社会や生活の形を変えること」と定義していますが、岡田は「医療やケアが良質であるとはどういうことか、その本質を考えることにこだわりたい」と熱を込めて語ります。
「シスメックスの研究開発部門に所属していた頃、糖尿病患者さんとその療養を支える看護師の方々の実態に触れ、検査が持つ意味を考え直す機会がありました。糖尿病患者さんにとって、血糖値を正常域に保って合併症リスクを減らすことはもちろん大切です。でも、治療するためだけに生きているわけではない。患者さんは、病気と向き合いながら自分らしく生きる方法を模索され、看護師は、患者さんの希望に寄り添った医療・ケアを提供しようと懸命でした。人々の健康に関わる企業の一員として、検査という枠組みに捉われず、患者さんのヘルスケアジャーニー全体を理解したうえで提供すべき価値を追求したいと強く感じるようになりました」
シスメックスの中核事業である検査・診断の枠組みを越えて、より良いヘルスケアジャーニーに貢献する。その想いが岡田の原動力となっています。
患者さんのヘルスケアジャーニーを地域一体で支えるために開発された看看連携アプリ
ディピューラが開発したのは、中核病院の病院看護師と地域の訪問看護師のスムーズな遠隔コミュニケーションを支援する看看連携アプリ「kaleido TOUCH(カレイドタッチ)」です。
「機能の高度化・分化が進んでいるうえ、業務が煩雑かつ多忙な病院のニーズに合わせ、カレイドタッチはスムーズな情報処理・共有をサポートする機能を強化しています。さらに、患者さんのヘルスケアジャーニーを地域全体でデザインし、サポートできるソリューションになっているかどうかも重要です。例えば、透析患者さんがクリニックに通って血液透析をするのか、在宅でできる腹膜(ふくまく)透析をするのか※2。もし後者を選択されたのであれば、事前に入院して必要な処置をして、セルフケアを学んでいただく必要があります。こうした治療の一連の流れを適切に管理し、支援していくシステムでなければ患者さんの望む治療へと導くことができません。そのため、今は退院後の外来患者さんを対象にしていますが、将来は入院中さらには入院前のタイミングで、本来あるべき連携を支援できるアプリに発展させようと考えています」
将来的には、検査・診断を中核事業とするシスメックスとのシナジーも発揮していきたいと岡田は話します。
「携帯型エコー検査デバイスや遠隔連携ができる聴診器、心電図など、これまで医療機関で行われていた検査が、訪問看護師によって在宅ケア現場で提供される流れが生まれつつあります。医療全体が病院から地域へシフトしていく中、これからはさらに在宅ケアで検査が果たす役割は大きくなっていくと考えます。ディピューラの看看連携プラットフォームとシスメックスが持つ検査のアセットを組み合わせ、在宅でできる検査をさらに広げる仕組みにも発展させていきたいです」
※2 血液透析と腹膜透析:どちらも腎臓の機能が低下した際に、体内の老廃物や余分な水分を取り除くための治療法。「血液透析」は、専用の機械を使って血液を体外に取り出し、老廃物や余分な水分を取り除いた後、再び体内に戻す方法。通常、病院や透析センターで行われる。「腹膜透析」は、おなかの中にある腹膜を使う方法で、透析液を腹部に注入し数時間後にその液体を排出することで、体内の不要な物質を取り除く。患者さん自身が自宅で行うことができるため、生活の自由度が高い。
患者さんの“生きるチカラ”を活かす看護師を支え、ともに新たな地域医療のカタチをデザインしたい
岡田は、カレイドタッチの実証実験の構想を進める中で、訪問看護師が語った言葉が印象に残っていると言います。
「『例えば、嚥下機能が低下した患者さんは、決められた病院食ではなかなか回復しないけれど、住み慣れた自宅で食べたいものを食べる環境が整えば、自然に回復していくことがあります。患者さんが本来持っている“生きるチカラ”を活かすことが看護師の一番大切な役割なんです』と、その訪問看護師さんは言いました」
「看看連携によって、患者さんの“生きるチカラ”を活かす看護師の能力が地域全体で最大化できれば、自宅に帰れたはずの患者さんが希望通りに帰ることができる。ディピューラは、看看連携を通じて患者さんにとって最善の医療がデザインされるような仕組みと、その仕組みが公的保険の枠組みで全国に広がるような潮流を生み出していきたいと思っています。訪問看護師は患者さんのことを一番よく理解している医療従事者です。われわれのデジタル技術によって、ヘルスケアジャーニーをコーディネートする伴走者として今よりさらに光のあたる存在になっていただければうれしいですね」
「架け橋」を表すギリシャ語「γέφυρα(ゲピューラ)」と、デジタルの頭文字「D」を掛け合わせた造語を社名とするディピューラメディカルソリューションズ。デジタル技術に磨きをかけて病院と地域をつなぐ架け橋となり、将来の世代に残すべき地域完結型医療とヘルスケアジャーニーを創造する挑戦が続きます。
シリーズ|デジタル医療
「デジタル医療」シリーズのvol. 1では、超高齢社会を迎えた日本で進められている「地域完結型」の医療体制整備や、医療機能の分散化を背景に高まる地域医療連携の重要性などについてご紹介します。
「デジタル医療」シリーズのvol. 2では、シスメックスのグループ会社 ディピューラメディカルソリューションズ株式会社 代表取締役社長の岡田 正規が、病院と地域の連携システムで、持続可能な地域完結型医療の実現にチャレンジするディピューラのいまを紹介します。
※ 「ヘルスケアジャーニー」とは、シスメックスが提唱する概念であり、人が一生の中(ライフステージ)で、自身のヘルスケアについて経験する各種イベントと、医療機関などを含む対応のプロセスを「旅路」として捉えるもの。シスメックスは、一人ひとりのヘルスケアジャーニーがより良いものになるよう、さまざまな協創を通じて新たな価値を提供し、社会にとって不可欠な存在として成長していくことを目指しています。「ヘルスケアジャーニー」はシスメックス株式会社の登録商標です。
▶ショートムービー「ヘルスケアジャーニーとは」(シスメックス公式YouTubeチャンネル)
- ストーリーに掲載されている情報は、発表日現在の情報です。
その後予告なしに変更されることがございますので、あらかじめご了承ください。