ストーリー

シリーズ|デジタル医療 vol. 3

現場インタビュー:医療DXが描く未来の地域完結型医療

「シリーズ|デジタル医療」では、地域完結型医療の重要性、そしてより良いヘルスケアジャーニーの実現を目指すシスメックスグループのデジタル医療への取り組みをご紹介しています。vol. 3では、地域医療を最前線で支える現場の医療従事者の視点から、地域医療の現在地や医療DXへの期待、そして未来の地域完結型医療のあり方について深掘りします。
シスメックスのグループ会社 ディピューラメディカルソリューションズが開発した、病院と地域の看護師をつなぐ“看看連携”アプリ「kaleido TOUCH(カレイドタッチ)」を導入いただいている松山赤十字病院 腎臓内科の医師・看護師の皆さんにお話を伺いました。

松山赤十字病院 腎臓内科/血液浄化センターの医師・看護師の皆さん

医師の視点から

地域完結型医療の実現に向けた
デジタル技術への期待

上村太朗先生

上村 太朗 先生

松山赤十字病院
腎臓内科部長
総合内科専門医 
腎臓内科専門医 
透析専門医

腹膜透析認定医

——松山赤十字病院の腎臓内科の特色、透析治療で特に力を入れている点について教えてください。

松山赤十字病院は、愛媛県松山市を中心とした地域医療の中核を担う総合病院です。腎臓内科においては、地域のクリニックや在宅ケア施設の要望に応じて、初期の腎臓病の患者さんから腎不全、透析になった患者さんの合併症まで幅広く診療しています。中でも透析治療は、高齢の患者さんや合併症を抱える患者さんが増加傾向にあります。専門の看護師の指導のもとで、早期から腎代替療法(血液透析・腹膜透析・腎移植)について情報提供を行い、患者さんがご自分の意志で、ご自身の生活環境や仕事の状況、信念や価値観にあった最適な治療を選択できるようサポートすることが私たちの重要な役割だと考えています。

上村太朗先生

上村 太朗 先生

松山赤十字病院
腎臓内科部長
総合内科専門医 腎臓内科専門医 透析専門医
腹膜透析認定医

腎臓の働きを補うための
透析治療とは?

透析治療は、糖尿病や腎炎などの疾患により腎臓が正常に機能しなくなったときに、体内の老廃物や余分な水分を取り除くための治療法です。腎臓の機能を障害する要因としては、糖尿病性腎症、慢性糸球体腎炎、腎硬化症などが挙げられます。日本で慢性的に透析治療を受ける患者さんは、約34万人で、その平均年齢は69.8歳と高齢者が中心となっています。透析には主に「血液透析」と「腹膜透析」の2つの方法があります。

※出典:日本透析医学会「わが国の慢性透析療法の現況(2022年末)

血液透析

専用の機械を使って血液を体外に取り出し、老廃物や余分な水分を取り除いた後、再び体内に戻す方法。通常、病院や透析センターで行われる。

腹膜透析

おなかの中にある腹膜を使う方法で、透析液を腹部に注入し数時間後にその液体を排出することで、体内の不要な物質を取り除く。患者さん自身が自宅で行うことができるため、生活の自由度が高い。

——地域医療における現状の課題についての考えをお聞かせください。

病気や障害を抱えていても、住み慣れた地域で患者さんを包括的にケアする地域医療の実現が国の目標として掲げられています。透析治療においては、在宅で行うことのできる腹膜透析は国の進める地域ケアに非常にマッチした治療ですし、医学的な観点からも、移動能力の低下した高齢の方やさまざまな合併症を抱える方に適した治療法です。
この腹膜透析を積極的に推進するためには、地域全体の専門的な診療レベルの向上・腹膜透析への対応力強化が急務です。これらの課題に対しては、患者さんのケアに関わるさまざまな医療従事者間での十分な情報・知見の共有が効率的に行われる仕組みが重要だと考えます。

——病院と地域との連携が強化されたことで、患者さんのケアにどのような変化がありましたか?

当院では、腹膜透析を選択された患者さんのケアにおいて、積極的に訪問看護師さんのサポートをいただいています。数年前、シスメックスの担当者から看看連携アプリのアイデアを聞き、デジタルの力で病院と地域医療の連携をより密にしていく考えが合致して、アプリを院内に導入しました。臨床現場での使いやすさなど現場のリアルな声をフィードバックしています。

カレイドタッチを導入してから、病院の医師と看護師、地域の訪問看護師さんがリアルタイムに情報共有できるため、従来の一対一の電話でのコミュニケーションから、一対多数で意思決定ができるようになりました。電話による業務の中断が減ったことで病院看護師の時間外労働が減り、結果として、患者さんのケアや説明にかける時間が増えるなど、当院の多くの看護師がポジティブな変化を感じています。また、訪問看護師さんから自宅での状況を画像で送ってもらうことで、来院前に合併症のリスクを判断して適切な指示を行えるなど、病院と地域の連携が効率化・活性化されたことで、より良いケアにつながっています。

さらにカレイドタッチは、地域の医療従事者への教育ツールという意味合いでも活用できると考えています。専門的な知識・経験を持った医療従事者が、訪問看護師さんからの質問や報告にコメントを返すことの繰り返しにより、地域の訪問看護師さんたちが腹膜透析に対する理解・専門性を深めていただくことにつながると思います。

——デジタル技術に対する今後の期待や要望はありますか?

“質の高い医療”の基本は、医療従事者と患者さんとが直接接することで提供されていくものだと思うんですね。しかしながら、高齢化に伴う患者さんの移動能力の低下や、全国的な医師の偏在・看護師不足などの課題はあります。その足りない部分をデジタル技術によって補うことで、医療従事者と患者さんと接する時間を確保することが、いま、私が思い描いている一つの理想の地域医療の姿です。

また基幹病院として、地域のクリニックや訪問看護ステーションに情報を発信することで、地域の専門的な診療レベルを底上げしていくサポートができればと思っています。シスメックスとディピューラの皆さんには、今後も実際の医療現場のニーズ、臨床情報を積極的に取り入れて、より多くの地域で使いやすいアプリに進化させていくことを期待しています。

看護師の視点から

看看連携の強化がもたらす価値

看護師 西山 圭子 様

リアルタイムの情報共有でケアの質が向上

患者さんに来院いただく前に、在宅での患者さんの状況をリアルタイムで共有できるようになりました。訪問看護師さんとのアプリでの画像のやり取りも増え、治療後の出口部(カテーテルがおなかから出ている部分)の経過や排液の濁り方など、従来の電話連絡と比較して、患者さんの状況を理解しやすくなり、より適切なケアにつながっていると感じます。

看護師 渡部 亜子 様

患者さんの在宅ケアを病院と地域がチームでサポート

腹膜透析は、在宅でできるというメリットがありますが、出口部感染や腹膜炎などのトラブルが起こることもあり、適切な自己管理が重要です。患者さんの中には、遠方の方や高齢の方など、すぐに来院いただくことが難しいケースもあります。カレイドタッチを通じて、自宅でのトラブルの状況はもちろん、セルフケアや服薬などについても、訪問看護師さんと密に連携できるようになり、患者さんへのケアの質向上を実感しています。

看護師 枡谷 親佳 様

訪問看護師の知恵・経験の活用がより良い治療へつながる

訪問看護師さんが、その豊富な経験に基づいて、明らかな症状が表れる一つ前の段階で、患者さんの状況をアプリで病院に連絡いただくことで、早期治療につながることもあります。またカレイドタッチは、受診歴や対応方法などのノウハウ・経験がデジタルで蓄積されるため、若手の看護師の教育にも役立つツールだと思います。

医療現場の声を聴いて

予防、治療、終末期に至るまで自ら選択し、自分らしく生きられる社会へ

中村 秀

ディピューラメディカルソリューションズ株式会社
事業企画部

中村 秀

Profile:2012年シスメックスに入社。国内営業として、東海エリアの検査センターや大学病院・クリニックまで幅広い医療機関を担当。2024年よりディピューラメディカルソリューションズに出向し事業企画を担当。

医療現場の皆さんと接していると、多忙な中でも、患者さんと真剣に向き合い、病院・地域がチームとなってより良いケアを届けることへの強い想いを感じます。カレイドタッチが、地域との連携におけるさまざまな課題を解消する一助となり、皆さんの想いを形にするお手伝いができたことを大変嬉しく思います。

私は、過去に医療従事者の方々とお話しする中で、「病気の発見や予防の機会を逃してしまっている人があまりにも多い」という現実を知りました。自分自身も、大切な人を病気で亡くしましたが、診断時には病状が進行しており「もっと早く見つかっていたら…」という想いは今も消えません。予防から診断、治療、終末期に至るまで、一人ひとりがもっと自分の健康と向き合い、自ら選択し、自分らしく生きられる社会の構築に向けて、患者さんや現場の医療従事者の皆さんとともに、一歩ずつ歩みを進めていきます。

デジタル技術を用いて地域に散在する医療従事者の知恵と技をつなぐ

小島 順子

シスメックス株式会社
次世代医療事業開発室

小島 順子

Profile:2007年シスメックスに入社。研究開発部門で主に小型検査装置・センサ等の開発に従事し、2023年から次世代医療事業開発室にてデジタル技術関連の事業企画を担当。

地域医療の現場では、医療従事者の方々が知恵と技術を共有し、患者さんにより良い医療をお届けしようと尽力されています。デジタル技術の力で、業務の効率化だけでなく、地域にある知見や技術をほかの地域にも広げることができると考えています。特に腹膜透析のような、全国的にノウハウがまだ広がっていない分野では、成功事例をほかの地域に展開することが重要です。

シスメックスは創業以来、人々に「安心」をお届けすることを大切にしてきました。医療機能が病院から地域へとシフトする中で、在宅でも人々が安心できる環境を提供することも重要な使命と考えています。地域に散在している医療従事者の知恵と技術をデジタル技術でつなぎ、在宅ケアの質を高めることで、一人ひとりが自分に合ったヘルスケアジャーニーを安心して歩んでいける社会づくりに貢献していきたいです。

※所属は取材当時のものを使用しています。

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    その後予告なしに変更されることがございますので、あらかじめご了承ください。

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