ストーリー

手術DX、医療の均てん化に貢献し、医療従事者や患者さん、ご家族へ安心・安全を届ける

~検査・診断で培った技術・知見を治療分野へ応用 医療のパラダイムシフトへ挑戦する~

現代社会の健康への関心が高まる中、ヘルスケア分野は技術革新やサイエンスの進歩によって、常に形を変えながら進化・発展し続けています。患者さんの身体的負担の低減やQOLの向上に加え、病巣の早期発見、医療従事者が安心して治療に集中できる環境の提供、また地域間の医療格差是正など提供される医療の均てん化という社会的課題の解決が求められています。

外科領域においては、手術の技術レベルの向上や高度な手術操作などが求められ、手術支援ロボットが注目を集めています。手術支援ロボットを活用することにより、低侵襲下で精密な動きを実施できるとして症例数が増加しているだけでなく、医療従事者や社会にとってどのような価値をもたらすのか。私たちシスメックスは「ヘルスケアの進化をデザインする。」を企業理念のミッションに掲げ、社会と医療、患者さんや医療従事者への提供価値を高めるべく、手術支援ロボットの全国・世界へ向けた展開、サージカルインテリジェンスへの取り組みおよびデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進を産官学連携のもとオープンイノベーションで取り組んでいます。

「より良い医療を提供したい」
「医療従事者や、その先にいる患者さん、患者さんご家族にとって、より安心・安全な医療をお届けしたい」
高い志と情熱を持ち、確実に歩みを進める従業員の姿にフォーカスし、当社がメディカルロボット事業に挑戦する想いや、医療従事者の方々とともに取り組む事例について、ご紹介します。


手術支援ロボット業界の市場規模※1は、年平均成長率(CAGR)13%で成長し、2030年にはグローバルで約2兆円に達すると予測されています。そのような中、日本発の手術支援ロボットとして誕生し、今まさに日本の臨床現場での活用が進められている手術支援ロボット「hinotori™ サージカルロボットシステム(以下、hinotori)」。
 
これまで、血液や尿などを調べる検査・診断領域で事業展開してきたシスメックスが、この領域へと足を踏み入れ、新たな事業に挑戦する想いとは——
 

手術支援ロボットが切り拓く医療の未来

人の腕のようになめらかに動くオペレーションアームに、フルハイビジョン3Dシステムで細部まで鮮やかに映し出される高精細画像。日本発のhinotoriは、微細かつ正確な動きによる手術サポートのほか、手術室全体の効率化に寄与する関連製品など、医療の進化に貢献することを目指して開発されました。
 
現在までに国内の医療機関で数十台の導入実績があり、24時間365日体制のサポートセンターや、手術中の稼働状態をリアルタイムで把握しコンピュータ上で再現できるネットワークサポートシステムのプラットフォームを展開し、効率的かつ安心してお使いいただける体制を構築しています。


 
「日本発の手術支援ロボットに対する医療従事者の方々の期待の高さをひしひしと感じています」と話すのは、シスメックスMR事業本部で企画営業を担当する秦 裕樹。前職では手術室構築などのコンサルティングに従事するなか、技術革新が目覚ましいAI・IoT・ロボットのトレンドを見据えた際、シスメックスのメディカルロボット事業に将来性を感じ、「より良い医療の提供に貢献したい」という想いから2019年に入社。以来、手術支援ロボットの導入を検討されている医療機関の先生方をはじめ、多岐に渡る関係者とのコミュニケーションを通じて製品導入だけでなく、医療現場でhinotoriの能力を最大限に引き出せる環境づくり、さらには海外展開に向けた活動に尽力してきました。

医療従事者との「対話」がすべてのはじまり

実物を目にしてまず驚くのは、洗練された気品を感じさせるデザインと、思いのほかサイズがコンパクトであること。hinotoriには、医療従事者の方々が実際に使う際のあらゆるシーンを想定し、さまざまな工夫が施されています。

「4本のアームはスリム化を追求し、アーム同士や人との干渉を軽減する設計になっています。また、人間の関節のような働きをする接続部にも高度な技術が使われており、しなやかな動きを実現できるのも特長ですね。医師がアームを操作するコックピットは、人間工学に基づいた設計により多様な操作姿勢に対応できるため、例えば長時間におよぶ手術時の頸椎への負担を軽減できます。hinotori本体を設置するだけでなく、お客様が安心・安全に運用できるように周辺環境の整備を含め、各施設に合わせたプランをご提案しています」


 

医療現場の期待の高さを表すように、hinotoriの導入を検討する全国の医療機関からは多くの問い合わせが寄せられています。実際の導入にあたっては、手術中に操作を行う医師や手術中に加え前後工程を担う医療スタッフ、病院経営層、コンサル、設計事務所の方々との事前の綿密なコミュニケーションが欠かせないと秦は語ります。

「建物全体の構造や手術室の広さなどをお伺いするのはもちろん、現地調査により、手術室内のレイアウトや手術中の医療スタッフの方々の動線などを把握し、細部まで具体的なイメージを膨らませて手術プロセスのご提案につなげています。すべてはhinotoriの能力を最大限に引き出せる環境をつくり、製品をご活用いただくため。『導入したのは良いけれど、うまく使いこなせない』という事態にならないよう、医療現場の皆さんにご協力いただきながら、事前に課題となり得るポイントを洗い出して一つひとつ解決していくことで、各施設にあわせたベストな環境づくりを進めています」 

製品の導入プロジェクトは、検討から製品導入まで半年ほどで完了するケースもあれば、病院の新築計画が決まった時点でご相談いただき、建物の設計段階から数年かけてご支援するケースも多々あります。

「この地域ではどのような医療が求められ、それに応える体制をつくるために手術支援ロボットをどう活用したらいいかなど、先生方と深い議論を重ねながら手術の開始へと段階を進めていくことも多いですね。医療に携わる一人の人間として、中長期的な視点で医療のあり方を一緒に見据えながらご要望に応えられるよう努めています」


遠隔医療への活用で、どこにいても質の高い医療を受けられる世界を目指して

手術支援ロボットの導入後も、医師から依頼を受けて手術前シミュレーションや手術にも立ち会い、より良い使い方についてサポートをすることも多いという秦。医療現場で、医療従事者と接し見えてきたことがあると語ります。
 
「hinotoriの導入により手術の効率化を図ることができれば、先生や看護師など、病院で毎日忙しく働く方々の負担軽減や業務改善につながると考えています。また、ゴッドハンドと呼ばれる限られた先生方にしか扱えないような高度な手技を数値化・見える化し、それをAIが学習することでロボット側から先生方へ術式をフィードバックする機能や、術中ナビゲーションによるアシスト機能のご提案ができるようになるでしょう。さらには教育コンテンツとして「いつでも」・「どこからでも」学べる環境整備ができれば、遠隔指導や遠隔トレーニングが可能となり、より多くの先生方の技術・知識向上に貢献できると考えています。このようにロボットと人が共存する仕組みは、目の前で行われる手術だけでなく、医療業界のパラダイムシフトを加速させる一要素であり、製品もサービスも常に進化し続けることが、よりよい医療提供体制の確立につながると考えています」
 
さらに秦は、hinotoriは医療従事者だけでなく、患者さんにも価値を提供できる製品であると語ります。 



 
「手術支援ロボットは、遠隔医療の実現において高いポテンシャルを有しています。例えば地域の病院にhinotoriの導入が進めば、都市部の病院とつないで時間や場所の制約が少なく、良質かつ適切な医療を効率的に提供できるようになるでしょう。DX化やスマートホスピタルを指針として掲げる医療機関は年々増えており、医療業界全体で手術支援ロボットへの関心が高まっています。製品導入を機に手術室のあり方を再構築いただくことで、医療従事者の方々の負担が減るとともに、その先にいる多くの患者さんにより良質かつ適切な医療を提供できるという流れをつくりたい、そのような想いがあります。また現在は、医師と患者さんが離れた場所で手術を行う遠隔手術の早期臨床実装に向けて、複数の医療機関や学会、通信サービス企業などと密な連携を図り、現場のニーズに則した機能追加やガイドライン整備なども行っています。医療に携わるすべての人々が働きやすく、かつ患者さんにとっては病院に通うことを前向きに受け入れられるような社会をつくる手助けができればいいですね。壮大な夢かもしれませんが、その使命を原動力に日々向き合っています」

患者さんの生涯に寄り添える存在でありたい

メディカルロボット事業に従事することに情熱を燃やし続ける秦。その心の中には、ある出来事をきっかけに芽生えた、医療貢献に対する強い想いがありました。
 
「ある自治体が財政破綻をして、地域の病院が閉鎖されるというニュースを見てハッとしたんです。病院というのは、その地域で生活している人たちの拠り所であり、何かあったら駆け込んで助けてもらえる、最後の砦とも言える場所です。そうした場所を守り続け、より良い状態へと高めていくために自分にできることがないかと考え続けています。健康な状態から検査をして、入院、治療、退院をした後の生活まで、患者さんが経験するPatient Journey※2のあらゆるシーンに目を向けて、QOL向上に貢献し続けていきたい。それこそが、当社のミッションである『ヘルスケアの進化をデザインする。』の実践にほかならないと信じています」



国内医療機関への導入が進むなか、さらなる診療科拡大に向けた取り組み、また海外展開など、より多くの医療シーンでの活用が期待されるhinotori。今後の意気込みについて秦は、シスメックスならではの強みを活かしてできることがあるはずだと力強く語ります。
 
「例えば治療の範囲や術式をより適切に選択するために、腫瘍が良性か悪性か、リンパ節に転移していないかなど、手術中にも検査を行うケースがあります。そこで当社が培ってきた検査・診断に関する技術や知見と、hinotoriとの融合により新たな価値を創出し、手術前の検査から、手術中、手術後の検査・治療によって患者さんの再発の不安をなくすまでを一貫してサポートできるトータルソリューションが提案できればと考えています。壮大かつ挑戦的な構想ではありますが、着実に前進しているという手応えを感じていますし、私をはじめ関係者たちの熱量はどんどん高まっています。これまで検査・診断領域で新たなソリューションを提供してきたシスメックスだからこそ、外科領域においても貢献できることが多くあるはずですし、私たちならできると信じています。『ヘルスケアの進化をデザインする。』というミッションへの想いを胸に、医療従事者をはじめステークホルダーの皆さまからの期待に応え続けるべく、メディカルロボット事業のさらなる成長に尽力していきます」
 
シスメックスは今後も、メディカルロボット事業を通じて医療の発展と人々の健康への貢献を目指していきます。

コラム 日本発の手術支援ロボット

手術支援ロボットの開発を手掛けるメディカロイドは、産業用ロボットの国産化に初めて成功し50年以上にわたり産業用ロボット技術を追求する川崎重工業株式会社と、検体検査に必要な機器や試薬を世界中の医療機関に提供し、医療分野で幅広いネットワークを有するシスメックスの共同出資により2013年に設立されました。マーケティングおよび製品開発に取り組み、2020年8月に日本発の手術支援ロボットとして日本における泌尿器科領域での製造販売承認を取得。同年9月に保険適用、2022年10月には消化器外科および婦人科領域への適応拡大について承認を取得しました。

シスメックスはメディカロイド製品の総代理店として、患者さんにやさしい低侵襲手術の普及を目指し、臨床現場での手術支援ロボットの導入・運用支援など、施設ごとの課題解決に向けて取り組んでいます。

 【注釈】

※1 市場規模は顧客購入価ベース。出典:TechSci Research、2030年はメディカロイド予測
※2 Patient Journey:患者さんが疾患や症状を認識してから、検査・診断、治療、再発・重症化防止、そして終末期までのプロセス
 
※  ストーリーに掲載されている情報は、ステークホルダーの皆さまに企業活動をお伝えするために実施しています。当社製品や研究開発の情報を含む場合がありますが、これらは製品に関するプロモーションや広告、医学的なアドバイス等を目的とするものではありません。また、掲載されている情報は、発表日現在の情報です。その後予告なしに変更されることがございますので、あらかじめご了承ください。
  • ストーリーに掲載されている情報は、発表日現在の情報です。
    その後予告なしに変更されることがございますので、あらかじめご了承ください。

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