皆さんは「へマトロジー」という言葉をご存知でしょうか?へマトロジーとは、血液検査の中で最も基本的な検査で、赤血球や白血球などの数や種類、大きさを分析し、より精密な検査が必要かどうかを判断する検査のことです。シスメックスは、このヘマトロジーをはじめとする検体検査領域のリーディングカンパニーとして、長年にわたり世界中の医療現場を支えてきました。
その豊富な経験をもとに、世界初の新機能を搭載した「ヘマトロジー検査システム」をお届けしています。この製品開発の原点は、最初から最後まで人の手を介さず、自動で検査業務を完結する“タッチフリー”という発想です。
本記事では、製品開発リーダーを務めた大前勇一郎が、新たな技術の発想と製品の開発秘話、そして未来への挑戦について語ります。
グループの技術・知見の結集で挑んだタッチフリーの開発
——いま臨床検査室に求められていること
労働人口の減少や医師の働き方改革の推進により、臨床検査室はさらなる業務の効率化と高度化が喫緊の課題となっています。そのため、今まで以上に現場の抱える課題やニーズに応える製品開発力が求められています。
——医療現場の真のニーズを捉え、顧客の期待を越える
では、そのようなニーズに貢献し、臨床検査室にイノベーションをもたらす発想はどのようにして生まれたのでしょうか。
大前:これまでは、いかに操作しやすい装置をお客様へ届けるか、を念頭に置き製品開発を行ってきましたが、本プロジェクトでは、お客様の理想の状態をイメージし、潜在的なニーズを探るところから始めました。
シスメックスのヘマトロジー装置は、世界190以上の国・地域の医療機関に広く普及しています。そのため、世界各地の顧客ニーズやユースケースの知見を集約できることが、シスメックスの強みだと感じています。さまざまな部門と連携しながら、世界中の臨床検査室の状況やお客様からいただいた意見を取りまとめ、たどり着いたのが、人の手を介さずに最初から最後まで自動で検査を行う“タッチフリー”という発想でした。
シスメックス株式会社
プロダクションデザインセンター 主任技師
大前 勇一郎
調査を進めるうえで特に注目したのが、『QC(Quality Control)業務』
※です。これは、臨床検査技師が検査を行う前に必ず実施する準備作業で、装置が正しく作動するかを確認する工程です。QC業務は、患者さんの病気の診断や治療に影響する重要な工程ですが、毎朝1時間ほどかかる負担の大きいものでした。私たちは、このQC業務を自動化する技術開発により、タッチフリー実現の第一歩を踏み出すことに成功しました。
開発は決して容易なものではありませんでした。世界中の臨床検査室で安心して使用していただくことを常に考え、異なる採血管の形状や装置サイズ、厳密な温度管理など、細部にまで配慮しました。
※臨床検査技師が毎日朝早く出勤し、検査機器を立ち上げ、精度管理物質を冷蔵庫から取り出して常温に戻した後、攪拌し検査機器にセットして測定を行うという一連の作業
タッチフリーが医療現場にもたらした変革
——臨床検査技師の負担軽減で専門技術を活かせる環境づくりに貢献
タッチフリーを実現したヘマトロジー検査システムは、発売以来、海外を含む多くの臨床検査室に導入されており、医療現場からは、次のような声をいただいています。
『検査データのばらつきが減少することで、データ品質が担保でき、測定結果に自信が持てるようになった』
『朝のQC測定が自動化されたことで、臨床検査技師の負担が大幅に減り、業務がスムーズになった』
『より専門性が求められる分析業務や臨床検査技師の育成・教育にリソースを確保できるようになった』
大前:臨床検査技師の負担軽減や、働き方の改善などを通じて、患者さんのより良い診断や治療にも貢献できていることは、開発者として大きな喜びであり、全社一丸となって連携した成果です。
台湾で行われた製品のローンチイベントでは、予想をはるかに超える大きな反響を呼びました。多くの医療関係者から高い評価をいただくなど、私たちの製品がいかに期待されているかを実感しました。
未来の臨床検査室を新しいカタチに
環境配慮やAI活用など、医療機器に対してこれからもさらなる進化が求められています。
「ヘルスケアの進化をデザインする。」をミッションに掲げるシスメックスの開発者は、未来の臨床検査室をどのように思い描いているのでしょうか。
大前:当社には、分析装置、試薬、分析前後の工程をつなぐ搬送システム、それらの連携を制御するソフトウェアまで、すべてを自社開発できるという非常に幅広い技術基盤があります。これら多様な専門性を持つ技術者と、世界中の臨床検査室の現場を熟知した各地のマーケティング、学術の専門家が一体となり、潜在的なニーズの掘り起こしから製品開発を行えるところが当社の強みです。
私たちの掲げる“タッチフリー”をもっと広げていくことで、将来的には人の手を介さずに基本的業務は我々の装置で自動運営できる「無人ラボ」を実現したいと考えています。「無人ラボ」が実現できれば、医療リソースが不足する遠隔地や過疎地域など、医療アクセスの向上にも必ずや貢献していけるはずです。今後も、医療従事者や、その先にいる患者さんに安心をお届けできるよう、グループの総合力で、臨床検査室の未来を切り拓いていきたいです。
コラム ヘマトロジー検査システムとは?フラッグシップモデルを徹底解説!
まず精度管理・洗浄用マテリアルの保管、装置の自動スタートアップ、精度管理物質の攪拌・測定などを行います。その後、検体を必要な検査工程に応じて並べ替えることで、 搬送システム全体の処理能力を最大限に発揮させることができます。測定が完了した検体は、さまざまな条件別に収納することで、検体管理・検索などの後工程を効率化します。
関連記事
※ ストーリーに掲載されている情報は、ステークホルダーの皆さまに企業活動をお伝えするために実施しています。当社製品や研究開発の情報を含む場合がありますが、これらは製品に関するプロモーションや広告、医学的なアドバイス等を目的とするものではありません。
関連キーワード
- ストーリーに掲載されている情報は、発表日現在の情報です。
その後予告なしに変更されることがございますので、あらかじめご了承ください。