シスメックスの成長戦略

シスメックスの成長戦略シスメックスの成長戦略

シスメックスは長期経営戦略2033において、長期ビジョン「より良いヘルスケアジャーニーを、ともに。」を定めています。

一人ひとりの生涯にわたるヘルスケアの旅路がより良いものになるよう、検体検査領域におけるイノベーションの創出に加え、未病・予防や治療領域へのチャレンジにより、新たな価値を提供し、2033年度に売上高1兆円以上の企業になることを目指しています。

この目標に向けて、 3つの成長戦略を設定し取り組んでいます。

成長戦略


  1. 1

    新興国での
    事業拡大

  2. 2

    既存事業
    の強化

  3. 3

    新規事業
    の拡大

1.

新興国での事業拡大

シスメックスは190以上の国や地域に製品を輸出し、先進国から開発途上国までさまざまな市場において事業を展開しています。

シスメックスの売り上げの約35%を占める新興国市場は、経済水準ならびに医療品質の向上により、今後も市場成長が見込まれます。

たとえば、世界第一位の人口を誇るインドにおいては、1人当たり国民医療費が日本の約60分の1、南米一人口の多いブラジルにおいては約6分の1と、大きな市場の伸びしろがあります。

これらの市場に積極的に投資を行い、ビジネス成長の機会を獲得していきます。

インド

インド新生産拠点(2024年度中稼働予定)

シスメックスは、1998年にインドに合弁会社(現 Sysmex India Pvt. Ltd.)を設立して事業を開始しました。2007年にはバディ州に試薬生産工場を設立、2008年には合弁会社を完全子会社化しました。2019年以降、主力のヘマトロジー分野において直接販売・サービス&サポートを順次展開することで、事業規模の飛躍的な拡大と販売・サービスネットワークの拡充を推進しています。順調に売り上げを伸ばし、中期経営計画における売上目標を前倒しで達成予定です。

今後も高い経済成長が見込まれるインドにおいて、中長期的に安定的な製品供給を実現するとともに、さらなる検査需要増加への対応や、Make in India政策の強化も視野に入れ、グシャラート州に新たな生産拠点の建設を進めています。本拠点は、現バディ工場の約4倍の試薬生産能力を有し、将来的な機器生産機能も備え、2024年度中の稼働を予定しています。

インド売上高推移

インドの市場成長を示すグラフ。2023年から2026年にかけての売上目標を表し、2023年に54億円、2024年に72億円、2025年に90億円、2026年に100億円の中計目標を示す。グラフには「+30%以上」の成長を示す矢印と「中計目標」のラベルが含まれています。

ブラジル

現代的な研究施設での科学者たち。白衣を着た研究者が実験装置を操作し、他の研究者たちはコンピューターやノートを使ってデータを分析している。広々とした明るい実験室には大きな窓があり、外の景色が見える。
新サポート拠点「Center for Learning South 」

シスメックスは、1998年に中南米で初となる現地法人(Sysmex do Brasil Industria e Comercio Ltda.)をブラジルに設立、2000年には試薬生産工場を設立し、ブラジルを中心に中南米地域での事業を展開してきました。また、2014年以降メキシコ、コロンビア、チリ、アルゼンチンに現地法人を設立し、事業を拡大しています。

今後も成長が見込まれる中南米市場において、カスタマーサポートのさらなる充実と強化を図るため、2023年11月に新たなサポート拠点 「Center For Leaning South」をブラジルに開設しました。これまで北米(シカゴ)のサポート拠点からオンラインで配信していた中南米顧客向けトレーニングを現地で実施できることから、ローカルニーズへの対応や、対面での実技トレーニングなど、より高水準なサポートを市場に展開しています。

ブラジル売上高推移

南米市場の成長を示すグラフ。2023年から2026年にかけての売上目標を表し、2023年に23百万ドル、2024年に30百万ドル、2025年に40百万ドル、2026年に40百万ドルの中計目標を示す。グラフには「+30%以上」の成長を示す矢印と「中計目標」のラベルが含まれています。
2.

既存事業の強化

シスメックスは、体内から採取した血液や尿・唾液などを検査する「ダイアグノスティクス事業」を中心に事業を展開しています。今後は収益の主軸を担うグローバルシェアNo.1のヘマトロジー分野に続き、さらなる売上の伸長・収益性の改善を見込める血液凝固検査・免疫検査・ライフサイエンス分野の3つの分野を重点的に強化していきます。

また、お客様との直接的なコミュニケーションを通して、医療現場の多様な課題へのソリューション提案を行う直接販売・サービス体制の強化・拡大や、グローバル企業とのアライアンスなどにより、地域特性に応じた事業を展開しています。

事業別売上高構成比

「ダイアグノスティックス事業」の市場シェアを示すドーナツチャート。外側の円グラフでは「ヘマトロジー」が59.6%、「血液凝固検査」が15.8%、「免疫検査」が5.1%、「ライフサイエンス」が4.4%、「その他」が残りの割合を占める。中央の円には「ダイアグノスティックス事業 99.2%」と表示されている。

血液凝固検査

欧米における血液凝固検査分野の直接販売を開始

凝固検査は血液を固めたり、溶かしたりする働きを調べる検査で、心筋梗塞の診断や手術前に血液の固まりやすさを確認する目的なとで用いられます。

シスメックスは、1995年より米国のSiemens Healthineers社とアライアンスを結び、両社あわせてグローバルシェアNo.1を獲得してきました。これまでのアライアンスでは、両社が地域を分担して販売していましたが、2023年の契約更新にて廃止、機器と試薬を相互に供給し、各々のブランドとしてグローバルに販売していくことになりました。

これにより、2024年4月からはシスメックスの販売地域が、欧米市場などへ広がりました。さらに、機器だけでなく、利益率の高い試薬を新たな地域で販売していくことで収益性の向上も目指します。

血液凝固検査分野の地域別市場規模(2022年)

2024年3月以前と4月以降の対象マーケットを示すバーチャート。2024年3月以前の対象マーケットは日本、中国、AP、米州、EMEAで、市場規模は約30億ドル(2022年)。2024年4月以降の対象マーケットはSiemens Healthineersへの機器供給を継続(グローバルOEM契約)。

血液凝固検査分野の拡大に向けた経営陣からのコメント

免疫検査

ユニークな検査項目を強みに、グローバル展開を推進

血液中のタンパク質やウイルス ・ ホルモンの状態などを調べる免疫検査は、検体検査市場において最大規模の分野です。シスメックスは、免疫検査分野において製品の特長を活かしたユニークな試薬項目の開発に力を入れてきました。その一環として、微量の血液からアルツハイマー病の原因とされるタンパク質の蓄積状態を調べる検査試薬を開発・販売しました。従来のPET検査や髄液検査に対して患者さんの負担を減らし、受診機会を拡大することで早期診断・治療につながることが期待されています。

このアルツハイマー病検査試薬の米国・欧州への販売を皮切りに、これまでアジア中心であった免疫検査分野の事業を、本格的にグローバル展開していきます。今後は、各地域において薬事承認取得や保険収載など、普及に向けた取り組みを積極的に推進していきます。

機器
最新の医療用分析装置。高性能の白いボディを持ち、大型のタッチスクリーンディスプレイが搭載されている。臨床検査や診断に使用される最先端の機器。
  • わずか17分の迅速測定
  • 高感度
  • 微量検体
試薬
各種医療用試薬のパッケージ。複数のサイズと種類の試薬ボトルが並んでおり、カラフルなキャップが付いた試薬ボトルとともに白いパッケージに収められている。臨床検査や診断に使用される高品質の試薬。
  • ユニークな試薬ラインアップ

ライフサイエンス

強みのある製品で収益性を向上

シスメックスは、2000年からがん遺伝子検査を中心としたライフサイエンス分野へ参入し、OSNA™法※1を用いたがんリンパ節転移診断システムなどの技術を開発し、製品へ展開してきました。

今後は、すでに一部地域において安定的な収益をあげている上記システムやPCR検査などの製品をグローバル展開することで、さらに収益性を向上させていきます。

また、医療機関などから検体を受託して結果をお返しするラボアッセイ事業から、検査キットビジネスヘのシフトに加え、オープンイノベーションによる事業拡大を進めていきます。

【事例】オープンイノベーションにおける研究開発の加速

がんゲノム医療は、高額で検査手順が煩雑なため、使用される医療機関が限定されています。

この課題を解決するために、短時間かつ低コストな、医療現場で使いやすい新たな遺伝子検査システムの共同開発に向けて、日立ハイテク社と合意しました。疾患ごとに適した遺伝子解析をより多くの医療機関で活用いただくことを目指しています。

  • 高品質な機器設計技術
  • 機器・試薬の同時開発
  • グローバル販売網
  • NGS※2試薬開発技術
  • NGS解析技術
  • 高性能な装置設計技術
  • キャピラリー電気シーケンサー
    技術・装置
  1. OSNA(One-Step Nucleic Acid Amplification)法:前処理工程の一部である核酸の抽出・精製が不要で、ワンステップで遺伝子増幅を可能とするシスメックスが開発した技術。
  2. NGS(次世代シーケンサー)法:遺伝情較を持つDNAの塩基およびこの配列を、同時並行で大量に読み取る解析装置。

直接販売・サービス体制の強化

2024年4月、過去30年以上にわたり販売代理店を通じた販売・サービスを展開していたイタリアにおいて、ヘマトロジー、尿、血液凝固検査分野の直接販売・サービスを開始しました。お客様との直接的なコミュニケーションを通して課題解決を行い、事業拡大を目指します。

シスメックスイタリア トップインタビュー

3.

新規事業の拡大

シスメックスは、長期ビジョン「より良いヘルスケアジャーニーを、ともに。」の実現に向け、主力事業の検体検査事業から事業範囲の拡大にチャレンジしています。メディカルロボット、再生細胞医療、デジタル医療など、今後医療ニーズのさらなる拡大が見込まれる事業に対して、アライアンスパートナーとの協力を通じて強化・拡大を目指しています。

メディカルロボット

メディカルロボットは手術部を大きく切開することなく手術が可能なため、患者さんの身体への負担低減や早期社会復帰に貢献します。また、ロボットによる精密な手術や遠隔手術の実現に向けて期待が高まっています。

グローバルの市場規模は、2030年には現在の約3倍まで成長すると予想されています。

シスメックスと川崎重工業株式会社の合弁会社である株式会社メディカロイドは、日本発の手術支援ロボットシステムを開発し、2020年から販売を開始しました。シスメックスはグローバル総代理店として本製品の販売を行っています。

現在では、日本国内でロボット支援下手術の保険適用となっている32術式のうち28術式でメディカロイド製品での手術が可能となっています。今後は、アジアから海外展開を拡大し、2025年度には欧州、2026年度には米州市場への参入を予定しています。

手術支援ロボットシステム
最先端の医療用ロボットシステム。左側は複数のアームを持つ手術用ロボットで、右側は精密な操作が可能な診断用ロボット。これらの高性能ロボットは、手術や診断において高い精度と効率を提供する。
売上高の予測成長を示すグラフ。2024年に7.3億円、2025年に8.6億円、2026年に9.9億円、2031年には20.0億円(約3兆円、1USD=157円換算)を予測。グラフには成長の矢印と「約3兆円」のラベルが含まれている。
(注)顧客購入価ベース出典:TechSci Research + Intuitive Surgical Annual Report 2021(2025年迄)、2030年はメディカロイド予測

再生細胞医療

再生細胞医療は、機能障害や機能不全に陥った生体組織・臓器に対して、幹細胞のはたらきをコントロールし、患者さんが必要とする役割を持った細胞に変え、その機能を回復する治療です。これまで根治が難しかった疾患を治療しうる技術として注目されています。市場も急速に拡大しており、今後も高い成長率が見込まれています。

再生細胞医療を広く患者さんにお届けするには煩雑な製造工程や品質の不安定さなど、細胞製造に関する課題解決が重要となります。

シスメックスは、自社が持つ細胞分析技術、品質管理検査技術やIoTを含むロボット技術を活用したワークフローの効率化に関する知見をグループ会社が開発する再生医療等製品に融合することによって、再生細胞医療の社会実装に貢献していきます。

再生細胞医薬品の世界市場予測

2020年から2040年までの細胞治療、がん免疫細胞療法、遺伝子改変細胞(がん除く)の市場予測を示すグラフ。2020年の実績値は0.17兆円、2025年の予測値は1.66兆円、2030年の予測値は4.04兆円、2035年の予測値は6.01兆円、2040年の予測値は7.13兆円。各治療法ごとの内訳が示され、成長の矢印が含まれている。
(出所)BBブリッジ2023年版世界の細胞医薬品開発の現状と将来展望、アーサーDリトル社資料より作成

デジタル医療

近年、医療の技術革新によりデジタル医療が提供されつつあります。医療に関する多様なデータ解析とその活用による医療におけるデジタルトランスフォーメーションは、患者さん一人のヘルスケアジャーニーにおける総合的な情報を管理し、各プロセスにおける適切な支援を可能とする、新たな医療の可能性を有しています。

シスメックスは次世代の医療・診断を支えるデジタル医療の事業化を加速することを目的に、AI・IoTに強みを有する株式会社オプティムとの合弁会社であるディピューラメディカルソリューションズ株式会社を2020年6月に設立。最初のプラットフォームとして、病院と訪問看護ステーションにおける連携をデジタルで円滑化し、患者さんに寄り添った在宅ケアを支援する看看連携アプリをリリースしました。

高度なAI・IoT技術を応用した医療アプリケーションやITプラットフォームの開発・事業化を通じて、これからも多様なソリューションの開発・提供を進め、次世代社会を見据えた医療の長期的発展に貢献していきます。

看看連携アプリ(カレイドタッチ)

急性期病院と在宅ケアの連携を示す図。急性期病院では主治医、外来看護師、緩和ケア、WOC、ケモ室が連携し、地域連携室を通じてオンライン看護指示が患者に提供される。在宅ケアでは訪問看護師が在宅看護レポートを作成し、専門看護コンサルテーションと連携して患者をサポートする仕組みを図解している。
(出所)カレイドタッチHP( https://kaleido-
touch.com/