持続可能な社会の実現に向けて、シスメックスはグループ全体で環境マネジメントに注力しています。中でも大きなテーマの一つとなっているのが、環境に配慮した機器製品の設計・開発です。医療機器として十分な品質を担保したうえで、製品をより小型・軽量化することで輸送時に排出されるCO2を削減。さらに省電力化や水使用量の削減など、製品使用時における環境負荷低減にも取り組んでいます。お客様のもとで長くご使用いただく製品だからこそ、さまざまな医療機関のニーズに応えることはもとより、お客様の期待を超える付加価値の提供とサステナブルな製品開発に挑戦するシスメックス。本ストーリーでは、ある製品開発の軌跡と開発者の想いをご紹介します。
2021年、シスメックスはヘマトロジー(血球計数検査)分野の新たな小型製品を発売しました。開発チームのリーダーを務めた三原崇仁は、製品開発に至る背景について次のように語ります。
「今回開発した小型製品は、中・小規模の病院やクリニックを対象としたモデルです。アジアや中南米などには中・小規模の病院やクリニックが多くありますが、そのほとんどが検査機器を置く十分な場所を確保できず、なかなか機器を導入できないという状態でした。しかし、患者さんが検査をするのはかかりつけ医のいる中・小規模のクリニック。シスメックスの検査機器が提供するデータの正確性・安定性をそのままに、限られたスペースにも置ける製品をつくれば、現地の方が自分の身体の状態を知る機会ができる。それによって、新興国の医療アクセス改善に貢献できると考えたのです。人命に関わる医療機器だからこそ、必ず普及させなければならない製品でした」
さらに、今回の製品開発にはもう一つ大きなミッションがありました。それは、物流をはじめとしたシスメックス社内の過程だけでなく、お客様が製品を使用する際の環境負荷を低減すること。世界190以上の国や地域へ製品・サービスをお届けするグローバル企業として、医療機器に求められる高い品質を担保したうえで、環境に配慮した製品設計に挑戦したのです。
従来の小型機種は発売時から現在まで、長い間お客様のもとで活躍してきました。今回は期間を空けての新製品開発ということもあり、まずは入念な情報収集から開始。新興国におけるクリニックの現状を正確に理解するため、営業担当者と一緒にニーズ調査を行いました。
「営業担当者だけでなく、開発者自らが海外の医療機関や代理店、子会社に赴き、ニーズや改良点をヒアリング。インド、インドネシア、ブラジル、メキシコのお客様へ訪問し、検査業務における困りごとや欲しい機能を細かく調査しました。実際に製品が使われている現地の検査室をこの目で確認できたことも大きな収穫でしたね。新興国などではインフラが整備されていない地域も多いため、メンテナンス業者を呼びにくく、検査装置を置く場所の確保も難しい。そのような環境を実際に体験したからこそ、製品の堅牢性、ランニングコストの低さ、持ち運びのしやすさが必要だということが肌で感じ取れました。その経験がお客様目線に立った製品開発につながり、開発段階での技術的な障壁を乗り越える原動力になったと感じています」
インドネシアで訪問した検査室の様子
また、環境負荷低減においても具体的な数値目標を策定。CO2排出量削減を目指し、従来機種と比較して重量比30%削減、消費電力25%削減、そして水使用量10%削減というチャレンジングな目標数値を掲げました。
「正直、はじめに環境配慮に関する数値目標を聞いた時は、果たして達成できるのかと感じたことは事実です。ただそれと同時に、世界中の医療に貢献する医療機器メーカーとしてこの開発を完遂することが私たちのミッションであり、このプロジェクトをやり切ることでその責任を果たせる、そう強く思いました。設計では何度も改善・修正を重ねたのですが、はじめに明確な数値目標を持てたからこそ手戻りすることはありませんでした。チームメンバー誰一人妥協することなく、突き進むことができたと感じています」
当時を振り返りこう語る三原は、既存製品の品質向上の経験はありましたが、新製品の開発に携わるのは今回が初めて。開発チームのメンバーもリードしながら、他部門との連携でも主導する日々は、毎日が学びの連続だったと言います。
「まずは、チームメンバーと品質面の具体的数値を設定しました。使用する試薬は従来機種と同じだったので、とにかく測定の運用フローを見直していこうと。目標は低すぎてもダメだし、高すぎるとメンバーのモチベーションが上がらない。開発チームのメンバーと相談しながら、最適値を探っていきました」
本製品をお使いいただいているお客様からは、処理能力やサイズ、機能・ユーザビリティがさまざまな面でニーズを満たすという声をいただいています。このお客様からの喜びの声が、今回の製品開発がお客様にとって価値あるものであった証しでもあります。製品開発について、三原は次のように語ります。
「新製品開発とは、真新しい製品をつくることだけではありません。開発とは、お客様が何を求めているかを理解し、お客様のニーズにお応えできる高品質な製品を生み出すこと。シスメックスは、ヘマトロジー分野のリーディングカンパニーとして高い品質と目標を持つ責任があります。だからこそ、今後もお客様やその先にいる患者さんに寄り添い、安心して使用いただける製品をお届けしていきたい。品質やユーザビリティが高く、環境配慮にも対応している医療機器は、世界中の医療機関や社会のニーズに応えられる付加価値となっていきます。今後は、このようなサステナビリティの観点も取り入れた開発をさらに進めていきます」
持続可能な社会の実現に向け、シスメックスは「環境に配慮した製品開発」をはじめ多様な取り組みを通じて、環境への貢献を目指していきます。