ストーリー

人と環境に優しい「環境適合型試薬」へのチャレンジ

~環境負荷が少ない製品の普及を通じて、持続可能な社会に貢献する~

持続可能な社会の実現に向けて、シスメックスはグループ全体で環境マネジメントに注力しています。そのなかで、大きなテーマの一つとなっているのが「環境適合型試薬の設計」です。ものづくりの上流である製品設計・開発の段階から、製品の使用や廃棄といった具体的なシーンを想定し、環境負荷低減にチャレンジするこの取り組み。人と環境に優しい試薬をお届けするための挑戦の軌跡と、開発者が試薬設計に懸ける想いをご紹介します。

 

検体検査に欠かせない「試薬」

血液や尿などを採取して調べる検体検査は、病気の診断や治療を行ううえで大切な役割を担っています。この検体検査に使われる「試薬」とは、一体どのようなものなのでしょうか。

「一言でいえば、『検体検査にとってなくてはならないもの』です。たとえば血液の中には、赤血球、白血球、血小板などさまざまな種類の細胞がありますが、試薬と反応させることで、検査する装置を使って正確な検査ができる状態をつくることができます。このほかにも装置内部の洗浄に使用される専用の試薬などがあり、多種多様な性能を持つ試薬が、病院、クリニック、検査センターなどの検査の現場で役立っています」

こう語るのは、約20年にわたって血球分析装置用の試薬の開発に携わり、現在は生産技術を担当する森 悠丞。日常的に大量消費される試薬だからこそ、環境への配慮は欠かせないものであり、その重要度は近年さらに高まっていると話します。




「世界中で環境への意識が高まるなか、試薬の原料となる毒物や劇物の使用に関する法規制が厳しさを増しています。特にヨーロッパでは厳格化が進んでおり、各地域の要求に適合した製品でなければ、そもそも供給することが難しい。私たち企業は、こうした環境規制に関する動向をいち早くとらえ、対応を図ることが強く求められています。そのなかでもシスメックスは、規制に対応するだけでなく、積極的に環境適合型の試薬を設計・開発し提供することを目指して活動を続けてきました」
 

環境適合型試薬への挑戦の歴史

シスメックスが取り組む「環境適合型試薬」の設計・開発。その代表例である濃縮試薬が初めて開発されたのは1995年のこと。きっかけは、お客様から届いた「声」でした。


「日本の検査センターでは一日の処理検体数が3万に上るほど多くの検査が行われています。検査の数が多いほど頻繁に試薬を交換しなければならないのですが、その作業をしている間は測定ができず、タイムロスが生まれるという課題がありました。また、検査業務に時間がかかるあまり『他の業務に集中できる時間が足りない』という切実な声も。そこでシスメックスは、赤血球や白血球などの数や種類を測定するヘマトロジーという分野において初めて、濃縮試薬を開発・上市したのです」


濃縮試薬とは、従来の試薬を濃縮して提供し、お客様が検査の際に「純水」で薄めて使うもの。濃縮試薬と試薬調製装置を合わせてお届けすることで、検査現場の方々が抱えるさまざまな課題解決に貢献しました。

「濃縮試薬を使うことで、試薬の交換頻度は劇的に少なくなります。また製品自体がコンパクト化・軽量化されたことで、在庫保管のスペースを削減できたり運ぶ際の負担が減ったりと、日々のオペレーションにおける困りごとの解消につながっています。加えて、濃縮試薬は環境面でもメリットが多く、容器や梱包材などの廃棄物削減、輸送時のCO2排出量の抑制にも貢献することができています」

壁を乗り越えたカギは“三位一体”の開発

こうして1995年にヘマトロジー分野で初めて濃縮試薬を提供して以降、2000年頃からは国内のみならずヨーロッパやアメリカなど海外への展開もスタート。そして2011年には、ヘマトロジー分野において新たな検査装置の発売と合わせて、専用の濃縮試薬およびこの濃縮試薬を希釈するための純水装置と小型化した試薬調製装置をセットで提供し始めました。


この新製品の開発において難関だったのが、小型の試薬調製装置で濃縮試薬を正確に希釈する技術の確立。濃縮試薬を正しく使っていただくためには正確に希釈を行う必要があり、25倍濃縮の場合は純水で薄めてきっちり25倍にしなければ正しい検査結果が出ず、誤った診断を導いてしまう可能性があるのです。この高い壁を乗り越えるうえでカギを握ったのが、試薬+装置+ソフトウェアの開発担当者が三位一体となって開発に挑んだことでした。

「濃縮試薬と希釈を行うための装置はセットで使っていただくものであり、お客様自身で正しい検査結果が出る状態の試薬をつくれることが重要です。私は試薬の設計担当として、機械のエンジニアとソフトウェアエンジニアと一緒に何度も実験や議論を重ね、希釈方法や希釈が正しく行われたことをチェックする方法を構築してきました。

シスメックスの強みは、試薬・装置・ソフトウェアの開発者が、互いの強みを活かしたうえで、製品化で足らない部分は補えるチームワークにあると私は考えています。
この新製品の開発では、半年に1回は関係者が集まり合宿を開催し、外部情報すべてを遮断して2日間みっちりディスカッション。それぞれの視点から率直に意見を出し合うなかで目指すべき姿を共有し、ベクトルを合わせて開発を進めていきました」

 

従来の試薬(左)と濃縮試薬(右)を比べるとその差は一目瞭然



こうして大事に育てた試薬は「我が子のようなもの」と語る森。製品名にも、開発者としての強い想いが込められています。


「この濃縮試薬には『セルパックDST』という名称をつけました。これは私をはじめ試薬開発に携わったメンバーで話し合って決めたもので、D=Dilute(希釈する)、ST=Standardという意味を込めています。『この製品をきっかけに、環境適合型の濃縮試薬がスタンダードになってほしい』という想いは、今も昔も変わっていません。ちなみに、この名前を付ける時もワイワイガヤガヤと意見を出し合いながら考えたのですが、自分の子どもの名前を考えるくらい、本当に頭を悩ませましたよ(笑)。それくらい愛着を持って育てて、自信を持ってお客様にお届けできる製品ができたと思っています」

人々と環境のために、全力を尽くしたい

当初はお客様の声に応えるべく始まった環境適合型試薬の設計ですが、結果として廃棄物の削減や輸送時のCO2排出量抑制などにもつながっており、こうした環境負荷低減に向けたシスメックスの取り組みは現在もさらに加速しています。

 
「ヘマトロジー分野でスタートした濃縮試薬の開発の知見を、今後は他分野にも展開できるよう検討を進めています。ほかにも、環境規制物質と呼ばれる毒性の成分や環境負荷の高い成分を別の物質に置き換えることで調達リスクを減らす試みや、保管している間に炭酸ガスが溶け込み中身の劣化が進んでしまうといった課題に対し、外部環境の影響を受けにくい試薬の設計を通じて有効期限を延長し、廃棄されてしまう試薬を減らすための取り組みなど、さまざまなテーマにチャレンジしています。私たちの原動力は、『お客様により使いやすいものを届けたい』という想い。そして、その先にいる多くの患者さんや生活者の方々が健やかな毎日を過ごせること、この世界が持続可能に発展できることを願っています。これからも環境適合型のものづくりを通じて、人々と環境のために力を尽くしていきたいです」




持続可能な社会の実現に向け、シスメックスは「環境適合型試薬の設計」をはじめ多様な取り組みを通じて、環境への貢献を目指していきます。

 

 

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