アルツハイマー病の進行を抑える効果が期待される世界初の治療薬「レカネマブ(一般名)」※が2023年12月、日本で発売されました。長年対症療法しか存在しなかったとされるアルツハイマー病。原因物質の一つである脳内の「アミロイドβ(Aβ)」の塊を除去することで進行を抑制するという新薬の登場により、アルツハイマー病の治療が転換点を迎えています。その新薬による治療のカギとなるのが、検査による「早期発見」です。シスメックスは、2023年6月にわずかな血液から、脳内Aβの蓄積状態を調べることができる検査試薬を日本で発売。従来手法と比較して、患者さんの精神的、身体的な負担が少なく、身近な医療機関で受けられる検査につながる技術を開発しました。検査への負担軽減とアクセス向上により、受診者が増えれば、より多くの患者さんの早期発見に繋がります。この検査試薬の誕生は、検査で医療に貢献したいという強い信念を持ち、吉田が尽力した10年にわたる取り組みが実を結んだものでした。
2013年ごろから、多くの製薬企業に足を運び、血液から読み取れるさまざまな情報を医療へどう活用できるか、意見交換を行うところからアプローチを始めた吉田。検査機器・試薬メーカーとしてシスメックスができることを理解してもらうため、実際に試作品の製作まで行うなど、地道な活動を1~2年続けました。そうした活動の末、2016年2月、認知症領域における豊富な経験とナレッジを有し、新薬開発に注力するエーザイ株式会社と、認知症の早期診断や治療法の選択、治療効果モニタリングを可能にする次世代の診断薬開発に向けた協創がスタートしたのです。当初の心境について、吉田は「長年、対症療法しか存在しなかった領域に対して、私たちが何か貢献できることはないだろうかという一心でした」と話します。