ストーリー

「試薬の安定供給」という終わりなき使命に挑む

~検査を止めない、コロナ禍におけるシスメックスの取り組み~

血液や尿などを採取して調べる検体検査は、病気の診断・治療に重要な役割を担っています。そして、検体検査において欠かせないのが「試薬」。この試薬の安定供給に向けて、シスメックスはグループ内だけではなく、原材料メーカーをはじめとする取引先企業とも密に連携し、グローバルかつ強固な供給体制の構築を図っています。こうした日々の活動が土台となり、今回のコロナ禍において調達や生産をはじめサプライチェーン全体を取り巻く環境が大きく変化するなかでも、安定供給を実現。さまざまなハードルを乗り越えながら「医療現場や人々の健やかな暮らしへの貢献」を実現するための取り組みに迫ります。

安定供給に多大な影響を及ぼすパンデミック

世界中に高品質な試薬をお届けすることで、価値の高い検査結果と確かな安心を提供し、医療を支える。シスメックスはこの社会的使命のもと、グローバルな安定供給にグループ一丸となって取り組んでいます。 

一方、安定供給を妨げる主な要因として挙げられるのが、地震や台風などの自然災害、貿易摩擦をはじめとする地政学的リスク、そして現在世界中が直面しているパンデミックです。

 

2020年初めより世界的に新型コロナウイルス感染症の感染が拡大すると、各国のロックダウンによる工場の操業停止、一部原材料や製品の急激な需要増や買い占め、物流の混乱など多くの問題が発生。シスメックスにおいても、調達や生産に関してさまざまな対応が求められました。 

困難な状況でも「必ず届ける」という確かな想い

「当社の製品は、医療を通じて人々の健康や安心を支える必要不可欠なもの。何としても安定供給を継続しなければなりません」

 

そう語るのは、25年にわたって調達業務に携わり、現在はSCM(サプライチェーン・マネジメント)本部で診断薬調達をリードする山縣朋仁。コロナ禍でも調達・生産に関わるさまざまな課題を解決すべく奔走しています。



「コロナ禍で大きな問題となったのが、ワクチンや検査キットと共通の原材料です。例えば、試薬生産に必要な化学原料、ガラス瓶、ゴム栓の一部がワクチンに使われるものと同じ種類だったため、世界的な需要増によって調達が困難となりました。ワクチンは人々の希望となる非常に重要な製品ですが、新型コロナウイルス感染症の関連検査に使われる当社の試薬もまた、安定供給が求められています。このままでは足りなくなるのでは
という供給上の懸念が出ましたが、経営課題として取り組み、数年分の安定供給に向けてメーカーと協議しました。化学原料、ガラス瓶についてはメーカーに直接、用途や意義を説明し、ワクチン向け供給に支障の出ない数量・納期を調整することで、ゴム栓はヨーロッパの当社関係会社とのネットワークを通じて余剰在庫を分けてもらうことで、無事生産へとバトンをつなぐことができました」

このほかにも、液体試薬容器を生産している取引先企業のマレーシアの工場が、感染拡大に伴う自国政府の方針に基づいて操業を一時ストップせざるを得なくなるという事態に直面しました。

 

 「緊急措置として日本から容器を輸送して対応すると同時に、マレーシア政府に対しては取引先企業を通じて、『シスメックスが扱う製品は医療用途であり、必要不可欠な物資である』と証明し、当社の想いを伝えました」。このように現地政府との粘り強い交渉により、その後、マレーシアの工場は無事再開に至りました。

 



山縣をはじめこれらの案件に携わった関係者を突き動かしているのは、「シスメックスの製品を必要としている人のもとへ、何としてもお届けしなければ」という使命感です。

 

「シスメックスの試薬は、コロナ禍の今、必要とされている製品の一つだからこそ供給を止めてはならない。その一心で、関係者一丸となって前に進んできました。これまでさまざまな対応策を講じてきましたが、何とか安定供給を実現できているのは、日ごろから取引先をはじめ社内外のネットワークを築き、強固な供給体制づくりに取り組んできたからに他なりません。これまで続けてきた活動が緊急事態を切り抜けるための手だてとなっているということを、調達に携わる者として誇りに思います」。山縣の力強い言葉は、サプライチェーンを支える一員としての責任感にあふれています。

ものづくりの流れを“信頼”でつないでいく

「強固な供給体制づくり」の一環としてシスメックスが取り組んでいるのが、日本で構築した量産体制の海外への展開です。現地の環境に即した量産技術の確立や新たな設備調達、技術移管のための現地従業員のトレーニング、現地メーカーからの原材料調達など、現地工場との密なコミュニケーションを図っています。


 

この取り組みでは、専門部隊である生産技術開発部をはじめ、シスメックスグループのグローバルな製品供給体制の一翼を担うシスメックス国際試薬株式会社や、品質保証・薬事・商品開発部門など多くの部門が力を結集。海外での新たな試薬工場の稼働にも一丸となって挑み、現在ではシスメックスの試薬工場はグローバル10拠点へと拡大しています。

「日本国内だけでなく海外でも原材料調達や生産ができるようになれば、より安定的な量産の実現や拠点間での製品の相互供給など、リスクマネジメントの観点で多くのメリットがあります。また、検査に用いる消耗品や海外工場で使用する試薬容器の現地化を数年にわたり進めてきたことで、コロナ禍における物流混乱の影響を低減できています」と山縣は語ります。


 

またシスメックスは、原材料を生産しているメーカーの選定や信頼関係の構築にも尽力。実際に、原材料調達担当者が原材料メーカーの工場へ足を運び、試薬の原材料の製造環境を自分たちの目で見て確認すること、原材料メーカーの経営方針・経営状況をお伺いすること、当社の安定供給への想いをお伝えすることを大切にしています。

 

こうした取り組みの背景にあるのは、シスメックスが購入する試薬原材料は20年以上継続して使用することが多く、長期間の安定供給が求められるということ。「『このメーカーさんなら大丈夫』と確信する必要があるのです。一方、当社の工場や神戸市内にあるバイオ診断薬拠点に原材料メーカーの方をご案内して、どのような施設や設備で試薬の開発・生産を行っているのかを見ていただく機会を積極的に設けています。当社のものづくりへの想いを知っていただき、『シスメックスと一緒に医療や人々の健やかな暮らしへ貢献したい』と思っていただけるよう働きかけることが大切。こうした日々の積み重ねがもしもの時に生きてくるのだと、今回のコロナ禍で実感しました」

先の見えない混乱の時代をいかに生き抜くか

これまでコロナ禍で多くの困難を乗り越えてきたものの、いまだ安定供給の妨げとなるリスクと隣り合わせの日々が続いています。「試薬の原材料以外では、プラスチック製消耗品、生産用副資材などの調達が困難な傾向にあります。一つひとつの課題に対し、各部門と迅速に情報共有しながら、解決策を検討しスピーディーな実行を図っています」

 

安定供給という終わりなき使命を、平常時以上に強く感じることとなったコロナ禍の日々を振り返り、山縣は多くの気付きがあったと話します。



「私が所属する診断薬調達部の役割は、単に原材料メーカーなどの取引先企業とモノの売買をすることだけではありません。時にシビアな交渉をしたり、世界全体の調達の流れをリサーチして供給懸念の芽をいち早く摘んだりと、アグレッシブに動ける人材を育てていかなければ混乱の時代を生き抜くことはできないと考えています。一人ひとりのレベルアップを図りながら、シスメックスとして供給体制のさらなる強化に取り組んでいかねばと今、想いを強くしています。この
1年間の経験を今後に生かし、引き続き安定供給に全力を注いでいきます」

 

先が見えないこの時代だからこそ、製品供給に関わる関係者との信頼を築き、医療の現場や人々の健やかな暮らしに貢献するシスメックスの挑戦は続きます。

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