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2011年Vol.34 Suppl.3

総説

抗リン脂質抗体症候群の鑑別診断と血栓形成機序

著者

野島 順三

山口大学大学院 医学系研究科・生体情報検査学

Summary

近年,生活習慣の欧米化に伴い,わが国でも虚血性心疾患や脳血管障害など血栓塞栓症をベースとする疾患が死因の上位を占めており,血栓症の診断や発症機序の解明に関する研究は極めて重要な課題である.血栓症の発症原因は,先天性血栓性素因と後天性血栓性素因とに大別される.先天性血栓性素因の多くは,血液凝固制御因子や線溶促進因子などの単一遺伝子の異常を直接の病因とするものが多く,診断法や治療法の確立は比較的容易である.一方,後天性血栓性素因の場合は,血栓症の発症に血管内皮細胞の異常・血液成分の異常・血流の異常など複数要因と生活環境因子 ( 食生活・加齢など) が混在しており,その診断は極めて困難となる.実際,臨床検査診断学が目覚しく進歩した現在でも後天性血栓症の発症原因を確定できる症例は30%に満たない.

近年,抗リン脂質抗体症候群という新たな疾患概念が後天性血栓性素因の代表的疾患として定着しつつある.本症候群は,生体内にリン脂質に関連する自己抗体である抗リン脂質抗体が産生されることにより種々の血栓性合併症を呈する患者群の総称であり,その鑑別診断法の確立や病態発症機序の解明に関して急速に研究が進められている.本稿では,抗リン脂質抗体症候群の疾患概念について述べると共に,抗リン脂質抗体症候群の鑑別診断および血栓形成機序について,最近の知見を中心に概説する.

Key Words

抗リン脂質抗体症候群, 抗カルジオリピン抗体, 抗β2-グリコプロテインⅠ抗体, ループアンチコアグラント, 抗ホスファチジルセリン/プロトロンビン抗体