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「第44回井上春成賞」を受賞

 シスメックス株式会社(本社:神戸市、代表取締役会長兼社長 CEO:家次 恒 以下「シスメックス」)は、産学連携による共同開発で実用化した「新規糖鎖マーカーを用いた肝臓の線維化診断技術」において、第44回井上春成賞を受賞し、本日7月18日(木)に日本工業倶楽部にて贈呈式が行われました。

 「井上春成賞」は、大学や研究機関等の独創的な研究成果をもとに、企業が開発、企業化した技術であり、わが国の科学技術の進展に寄与し、経済の発展、福祉の向上に貢献した技術の中から特に優れたものについて、研究者および企業を表彰することを目的とし、昭和51年に創設されました。

 新規糖鎖マーカーを用いた肝臓の線維化診断技術は、シスメックスと国立研究開発法人 産業技術総合研究所(つくば本部:茨城県つくば市、理事長:中鉢 良治、以下「産総研」)が、NEDOプロジェクト※1の成果をもとに、肝線維化の進行度を糖鎖マーカー※2を用いた血液検査により17分という短時間で判定する診断薬を開発し、2013年12月に世界で初めて実用化※3に成功したものです。

 ウイルス性肝炎は、日本では約300万人が感染する国内最大の感染症であり、感染した状態を放置すると、肝細胞がんへ進行する可能性があるなど重篤な病態を招く疾患です。そのウイルス性肝炎や肝臓の線維化の進行度を検査する方法として、従来は肝生検※4などの生体組織を採取するという患者さんの身体的・精神的に負担が大きい検査法や高額な画像診断装置を使った検査法が一般的でした。しかしながら、本技術の実用化および保険適用により、医療機関の臨床検査室などで従来技術よりも短時間での測定を可能とし、検査のための入院を必要とせず採血のみで肝臓の線維化の進行度を迅速に測定することが可能となりました。その結果、ウイルス性慢性肝炎の治療における患者さんの負担軽減だけでなく、適切な時期に適切な治療を行うことが可能となり医療費の抑制にもつながっています。

 シスメックスは、本技術により実用化した肝臓の線維化検査用試薬(HISCL™ M2BPGi™試薬)の事業を拡大させるべく、日本での臨床評価のエビデンスをベースとして、中国や韓国・東南アジアなどへも事業展開を進めていきます。

 さらに今後も、産学官連携による研究開発を加速させ、先端技術の実用化に向けた活動に力を入れて取り組んでいきます。

 

【第44回井上春成賞 贈呈式】 
贈呈式の様子



HISCL™ M2BPGi™試薬




【受賞の概要】 

  授賞名: 第44回井上春成賞
  受賞者:  研究者 成松 久(国立研究開発法人 産業技術総合研究所 創薬基盤研究部門 名誉リサーチャー)
    企業 家次 恒(シスメックス株式会社 代表取締役会長兼社長 CEO)
  案件名: 新規糖鎖マーカーを用いた肝臓の線維化診断技術



【参考】

  ・2013年12月26日リリース 『世界初となる糖鎖マーカーを用いた肝線維化検査技術の実用化に成功 - 肝炎から肝硬変に至る肝臓の線維化の進行度を迅速に判定 - 』:
https://www.sysmex.co.jp/news/2013/131226.html
 
  ・2015年1月5日リリース 『肝臓の線維化検査用試薬(HISCL M2BPGi試薬)が保険適用 ~血液で慢性肝炎から肝硬変に至る肝臓の線維化の進行度を迅速に判定~』:
https://www.sysmex.co.jp/news/2015/150105.html
 
  ・2016年8月29日リリース 『第14回産学官連携功労者表彰「経済産業大臣賞」を受賞』:
https://www.sysmex.co.jp/news/2016/160829.html
 
  ・井上春成賞ホームページ:
https://inouesho.jp/jyusyou/index.html



【注釈】

※1 





 
NEDOプロジェクト:
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(New Energy and Industrial Technology Development Organization)は、日本最大級の公的研究開発マネジメント機関として、経済産業行政の一翼を担い、「エネルギー・環境問題の解決」および「産業技術力の強化」の二つのミッションに取り組む。「糖鎖合成関連遺伝子ライブラリーの構築プロジェクト(2001-2003年度)」、「糖鎖構造解析技術開発プロジェクト(2003-2005年度)」で開発された基盤技術をもとに「糖鎖機能活用技術開発プロジェクト(2006-2010年度)」が実施され、本件試薬につながる成果が得られた。
 
※2 



 
糖鎖マーカー:
細胞表面や血液中のタンパク質上に存在する糖が連なった物質。「細胞やタンパク質が羽織る衣装のようなもの」とも例えられる。個々の細胞に特異的な情報伝達や細胞間コミュニケーションなどの役割を果たしている。糖鎖マーカーは糖タンパク質に存在する糖鎖の構造変化をターゲットにしたバイオマーカー。
 
※3 











 
実用化の経緯:
共同研究先である産総研・糖鎖医工学研究センター(開発当時)では、肝線維化に伴う質的変化を捉える疾患バイオマーカーの探索を行い、肝線維化進展に最も相関のあるバイオマーカーとしてレクチンの一種であるWisteria floribunda agglutinin(以下、「WFA」)に反応するMac-2結合蛋白糖鎖修飾異性体 (以下、「M2BP糖鎖修飾異性体」)を同定。しかしながら、「糖鎖とレクチンの結合力」は「抗体と抗原の結合力」にくらべて1/1000と非常に弱く、基礎研究では測定に18時間以上を要していたため、臨床応用は困難と考えられていたが、シスメックスはターゲットのM2BPが生体内では8-12量体のリング状構造で存在している特性に注目し、WFAと多点結合が可能となるように磁性粒子上にWFAを高密度に固定化する方法を自社開発した。これにより微量血清中(10μL)から、WFAに反応するM2BP糖鎖修飾異性体を捕捉することを可能とし、化学発光を用いた高感度かつ迅速(17分)な肝線維化進展を診断する体外診断用医薬品の開発に成功した。

*レクチン:糖鎖に結合するタンパク質の総称。約40~50種類のレクチンが知られており、それら種々のレクチンは特定の糖鎖構造を認識し結合するため、特定のレクチンを用いることにより標的とする糖鎖上の構造変化を検出することができる。
 
※4   

 
肝生検:
病理診断を目的に、腹部に生検針を刺し肝臓の組織を採取して、肝臓の組織の一部を顕微鏡で調べる検査。
 


以上

 

  • プレスリリースに掲載されている情報は、発表日現在の情報です。
    その後予告なしに変更されることがございますので、あらかじめご了承ください。

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