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世界初となる糖鎖マーカーを用いた肝線維化検査技術の実用化に成功

- 肝炎から肝硬変に至る肝臓の線維化の進行度を迅速に判定 -

   シスメックス株式会社(本社:神戸市、代表取締役会長兼社長:家次 恒、以下「シスメックス」)は、独立行政法人産業技術総合研究所(つくば本部:茨城県つくば市、理事長:中鉢 良治、以下「産総研」) 糖鎖医工学研究センター(研究センター長:成松 久)と共同で、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(本部:神奈川県川崎市、理事長:古川 一夫、以下「NEDO」)のプロジェクトの成果をもとに、肝線維化の進行度を糖鎖マーカー※1を用いて血液検査により判定する試薬を開発。2013年12月10日に薬事承認(製造販売承認)を得ました。
   これにより、進行することで肝臓がんの原因となる恐れがある慢性肝炎・肝硬変へ至る、ウイルス性肝炎に起因する疾病(肝線維化)の進行を、医療機関の臨床検査室などで、従来技術よりも短時間に測定することが可能となります。
   なお、糖鎖マーカーを用いた肝臓の線維化検査技術の実用化は、世界初となります。

※NEDOプロジェクト:「糖鎖合成関連遺伝子ライブラリーの構築プロジェクト(2001-2003年度)」、「糖鎖構造解析技術開発プロジェクト(2003-2005年度)」で開発された基盤技術をもとに「糖鎖機能活用技術開発プロジェクト(2006-2010年度)」が実施され、この度実用化された試薬に繋がる成果が得られた。

1.背景
  ウイルス性肝炎は、日本では約300万人が感染する国内最大の感染症であり、感染した状態を放置すると、肝細胞がんへ進行する可能性があるなど重篤な病態を招く疾患です。独立行政法人国立がん研究センターがまとめた「がん統計情報」によると、日本における2011年の肝細胞がんによる死亡者数は、31,800人にのぼり、がんでは肺がん、胃がん、大腸がんに次いで4番目に死亡者数の多いがん種となっています。
  慢性肝炎から肝細胞がんへ進行する過程で、線維に富んだ組織が肝臓に蓄積し肝臓の機能が徐々に損なわれていきます。ウイルス性慢性肝炎の治療プロセスにおいては、肝炎ウイルスの持続感染により進行する肝臓の線維化の程度を判定することが重要であり、その検査は肝臓組織を採取して行う生検(生体組織診断)が主流となっています。しかし、生検は患者が入院する必要があり、身体的・経済的な側面で患者の負担が大きいことが課題となっていました。そのため厚生労働省の「肝炎研究7カ年戦略※2」では「線維化の進展を非観血的に評価できる検査法の開発」が提示されています。
  このような背景の下、NEDOと産総研は2006年に発足した「糖鎖機能活用技術開発プロジェクト」(実施期間:2006~2010年度)にて肝臓の線維化の進行による微小な糖鎖の構造変化を見いだし、これを指標として用いることにより、これまでのタンパク質ベースのバイオマーカーでは不可能であった精度の高い診断を可能とする糖鎖マーカーの開発を進めてきました。しかし精度面の課題は克服できましたが、測定に時間がかかり、臨床現場で実際に使用する上で課題となっていました。そこで、2009年には診断システムの実用化を加速するために、シスメックスが共同開発者として加わり、産総研とともに糖鎖マーカーを迅速に測定する技術の研究開発を実施してきました。2011年2月に NEDOプロジェクト終了後も、産総研とシスメックスの2者間で共同研究を継続し、製品化に向けて鋭意努力してきました。また、本検査法の有効性の実証のために、独立行政法人 国立国際医療研究センター 肝炎・免疫研究センターおよび名古屋市立大学大学院 医学研究科 ウイルス学分野などの医療機関との共同研究において多大なる協力をいただきました。

 


2.今回の成果
  このたび共同開発した糖鎖マーカーを用いた肝臓の線維化検査用試薬は、肝線維化の進行と相関性が高いレクチン※3を用いて、変化した糖鎖構造 Mac-2 binding protein糖鎖修飾異性体※4(以下「M2BPGi」))を捉え、化学発光酵素免疫反応によりM2BPGi量に応じた発光強度を検出する検査技術であり、肝臓の線維化の進行の度合いが数値でわかります。このような検査技術は、これまでのタンパク質ベースでの検査では実現できなかった、線維化病態におけるM2BPGi表面上の質的な変化(糖鎖構造変化)を捉えることが可能となる点で、より有用性の高い検査と考えられます※5
  基礎研究の段階では測定に約18時間を要していましたが、今回、医療機関の臨床検査室で実施する診断システムとして開発した結果、わずか17分程度での測定を実現することに成功しました。検査技術の実用化により、入院を必要とせず採血のみで肝臓の線維化の進行度を迅速に測定することができるため、ウイルス性慢性肝炎の治療における患者の負担軽減が期待されます。
  なお、糖鎖マーカーを用いた肝臓の線維化検査技術の実用化は、世界初となります。

図1 疾患の進行に伴って糖鎖構造の変化する糖タンパク質のモデル図
(a)→(b)へと肝炎からがんに(線維化の程度が)進むと糖鎖構造が変化した糖タンパク質が増えるが、糖鎖解析技術によりこのような糖タンパク質の量を把握する。

【参考】   

 
※1  糖鎖、糖鎖マーカー:糖鎖は細胞表面やタンパク質上に存在する糖が連なった物質。「細胞やタンパク質の衣装」とも例えられる。個々の細胞に特異的な情報伝達や細胞間コミュニケーションなどの役割を果たしている。糖鎖マーカーは糖タンパク質に存在する糖鎖の構造変化をターゲットにしたバイオマーカー。
 
※2  肝炎研究7カ年戦略:2008年に厚生労働省が取りまとめた国家戦略。肝炎治療実績の改善につながる成果獲得を目的として、肝炎、肝硬変及び肝がんを含めた肝疾患の研究の充実・強化について戦略を定めている。
 
※3 レクチン:糖鎖に結合するタンパク質の総称。約40~50種類のレクチンが知られており、それら種々のレクチンは特定の糖鎖構造を認識し結合するため、特定のレクチンを用いることにより標的とする糖鎖上の構造変化を検出することができる。
 
※4  Mac-2 binding protein糖鎖修飾異性体:タンパク質部分が同じであっても、細胞状態の変化に伴って、タンパク質上の糖鎖構造が異なるものを糖鎖修飾異性体という。肝線維化の進行度によってMac-2 binding protein(M2BP)上の糖鎖構造が変化するため、タンパク質部分と糖鎖構造の両方を検出することで、診断マーカーとして利用できる。(M2BPGi: Mac-2 binding protein glycosylation isomer)
 
※5

Scientific Reports (Nature Publishing Group), 3号, 1065(2013年)に基礎データが掲載。
Kuno A, Ikehara Y, Tanaka Y, Ito K, Matsuda A, Sekiya S, Hige S, Sakamoto M, Kage M, Mizokami M, Narimatsu H. A serum "sweet-doughnut" protein facilitates fibrosis evaluation and therapy assessment in patients with viral hepatitis. Sci. Rep. 3, 1065 (2013). 

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