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2007年Vol.8 No.3

論文

網赤血球の成熟過程 - 貧血マウスを用いたRET チャンネルの実験的検証 -

著者

河野 麻理, 高木 由里, 近藤 民章, 藤本 敬二

シスメックス株式会社 学術本部 セルアナリシスセンター

Summary

RETチャンネルとは,シスメックス社製の多項目自動血球分析装置XT-2000i ,XE-2100 およびXE-5000 などに搭載されている網赤血球測定機能である. 網赤血球の残存RNAを,蛍光色素を含む染色試薬RETSEARCHⅡで染色し,その蛍光強度によりLFR ( Low-Fluorescence Ratio ),MFR
( Middle-Fluorescence Ratio ),HFR ( High-Fluorescence Ratio ) の3分画に分けて網赤血球をカウントしている. RETチャンネルのカウント値は赤血球新生の状態把握や,貧血や骨髄抑制などの診断に広く利用されている. LFR,MFR,HFRそれぞれに分画される細胞は,初期の未成熟な網赤血球( HFR ) から,最も成熟に近い網赤血球( LFR ) へと,異なる成熟ステージを反映していると言われているが,これまでに各分画の細胞について特徴づけを行った報告はない.

今回我々は,異なる成熟ステージの細胞について特徴づけを行うことを目的とし,形態およびRETSEARCHⅡ染色パターンについて解析を行った. さらに,それぞれのRETSEARCHⅡ染色パターンについて,よく知られている網赤血球の表面マーカーCD71 抗原( トランスフェリン受容体 ) の発現パターン,およびニューメチレンブルー染色パターンとの比較を行った.

フェニルヒドラジンを腹腔内投与して5日目の貧血誘導マウスの血液を用い,セルソーティングシステムによりRETチャンネルスキャッタグラムを再現し,LFR,MFR,HFRそれぞれの分画の細胞をソーティング後,固定し,透過型電子顕微鏡( TEM ) で観察を行った。さらに同様の血液について,RETSEARCHⅡとCD71-Alexa488 の二重染色後,FACSで解析を行う一方,共焦点レーザー顕微鏡( CLMS ) での観察を行った.

TEMとCLMSの解析から,CD71 抗原の発現消失の様子,および残存オルガネラなどの内部構造がHFRからLFR,成熟赤血球RBC ( Red Blood Cell ) へと成熟が進むにつれて消失していく様子が観察できた. また,FACS解析から,CD71 の発現がより幼若な細胞に分布していて,HFRからMFRの間で急速に消失することがわかった. 同様の結果がコロイド金標識CD71 抗体を用いた免疫電子顕微鏡法でも確認できた.

特記すべきことは,TEMにより,全ての未成熟細胞分画( LFR,MFR,HFR ) で残存リボソームが確認できた一方,成熟赤血球分画RBCでは観察されなかったことである. 網赤血球解析の標準法であるニューメチレンブルーによる超生体染色では,残存リボソームが染色され,この有無によって網赤血球の判定を行っている. このことから,RETチャンネルによる網赤血球判定が,ニューメチレンブルー超生体染色による判定と形態的に一致することが証明できた.

さらに,本検証は,網赤血球の成熟過程に関する多数のin vitro の報告に対し,非常に稀なin vivo での解析報告であるが,得られた結果はこれまでのin vitro の検証を裏付けるものであった.

Key Words

RETチャンネル, 網赤血球, 成熟,CD71 ( トランスフェリン受容体 ), 形態