Sysmex Journal Web ※このコンテンツは医療従事者向けです

2004年Vol.5 No.3

総説

血液凝固異常と腫瘍学

著者

Eckhardt PETRI

Clinical & Scientific Affairs, Dade Behring Marburg GmbH

Summary

100年以上前,Trousseau ( トルソー ) は胃癌における止血異常を初めて報告した. 彼の研究は何十年も後に認められることとなり,腫瘍による血液凝固の刺激は今でも一般に「トルソー症候群」と呼ばれている.

血液凝固と腫瘍ホメオスタシスの間に重要な関係が存在するという概念は,臨床的,組織学的及び薬理学的という3種類のエビデンスによって支持されている.

臨床的及び検査的エビデンスは,ある種の癌患者が血栓塞栓性疾患及び/または播種性血管内凝固症候群 ( DIC ) を発症する,というよく知られた現象に基づいたものである. 組織学的エビデンスは,腫瘍からのびる血管に血小板及びフィブリン血栓が生じるという所見から得られている. 最後に,動物の腫瘍モデル及び人の癌における抗凝固剤及び/または抗血小板剤による薬理学的介入の肯定的な結果も,癌に付随する「凝固亢進」状態が宿主にとって不利となる,という主張を裏付けている. 今日では,例えばレセプター,表面マトリクス及びサイトカインといった腫瘍産物によって,血液凝固の局所的あるいは全身的な活性化が生じ得ることが広く受け入れられている. この活性化は腫瘍の拡大に有利となる一方,血液凝固反応の阻害は一般に宿主に有利となり,腫瘍の転移を妨げる.

Key Words

癌, D-ダイマー, 静脈血栓塞栓症