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2004年Vol.5 No.2

総説

乳癌の診断から治療へのストラテジー

著者

増田 慎三

国立病院機構大阪医療センター 外科

Summary

我が国の3大死因の一つである「 癌 」の中で,今,その数が急増し国民的関心が高まっているのは,「 乳癌 」である. 女性の癌の中で第1位を保ってきた胃癌を抜き,現在,20 ~ 30人に1人が乳癌に罹患するといわれ,年間約35,000人に乳癌が発見されている. 死亡率も毎年増加傾向にある. また,乳癌の好発年齢は,40~50歳代のいわゆる壮年期であり,高齢者に多い他の癌種と違って,社会・家庭において中心的存在の女性を襲う意味では,今や,乳癌は国民的疾患であるといっても過言ではない. その原因には,結婚・出産の高年齢化,出産しても母乳を与えない女性の増加,中年以降の肥満等いわゆる食生活を中心とした欧米化が考えられている.

しかし,一方,欧米では罹患率の上昇はあるものの,乳癌死亡率は近年減少傾向にある. その理由として,マンモグラフィを中心とした精度の高い検診システムの普及と,画像診断や治療技術( 正確な手術や新規抗癌剤開発 )等の研究進歩による治癒率の向上が挙げられる.

乳腺疾患は,従来は外科医により一般外科の範疇で取り扱われてきたが,上述のような,乳癌の増加や関心の高まり等の社会的背景,さらには,その治療成績を満足させるための,各種画像診断や病理診断による病態把握力,手術・薬物療法・放射線療法等の幅広い治療選択肢を的確に利用する治療プラン設計等,多岐にわたる専門性が要求される疾患である. 最善の治療を提供するために,その基になるのは,画像診断と病理診断に代表される「 乳腺診断学 」であり,本稿では,その日常臨床における実際を概説する. さらに各ステップにおいて近年急速に進む分子生物学的研究がどのようなかかわりを持つか,可能性と夢を探りたい.

Key Words

乳癌, 画像診断, 病理診断, 分子生物学的診断, 微小癌細胞