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2012年Vol.35 Suppl.2

総説

臨床検査情報としての尿検査のあるべき位置づけ

著者

油野 友二

金沢赤十字病院 検査部

Summary

尿検査は紀元前からの記録がある世界最古の臨床検査である.そして尿沈渣検査の歩みは,尿という体からの生成物から見えざる体内の変化を把握しようとした先人の英知と努力によって築かれてきたといえる.

尿沈渣検査は重要な形態学的検査として位置づけられてきた.このため,尿中成分である上皮細胞類,血球類,円柱類,結晶・塩類,細菌類について,それぞれ正確に分類して計測することが求められている.では,その尿沈渣検査の臨床的意義は何かと言うと,第一に腎・尿路系に病変があるかどうかのスクリーニング,第二に,すでに確認された腎・尿路系の病変に対する治療効果や,薬剤の副作用の判定についての情報収集の両者である.ただ,この二つの目的は決して尿沈渣検査のみに求められている事項ではなく,尿蛋白,尿潜血反応に代表される尿定性検査も同様の価値を有していることは言うに及ばない.

しかし,これまでの尿定性検査や尿沈渣検査によって推定されていた腎・尿路系の病態は,今日では画像診断や免疫学的検査の進歩によって,新たな視点からの把握が可能になり,尿検査はスクリーニング検査としての価値が一層高まってきている.このような流れの中では,効率的に尿スクリーニング検査を行い,必要とされる検査標本を形態学に熟練した技師が担当するという体制が必要である.さらに,尿から病態を考え,患者・健診受診者に有用な情報を観察かつ提供できうる立場にあるのは臨床検査技師であることを再認識し,積極的な病態情報の提供に努力すべきであると考える.

また,UTI 薬効評価基準( 2009年,尿路性器感染症に関する臨床試験実施のためのガイドラインとして改定 ) をはじめとして,血尿診断ガイドライン( 2006年 ),CKD ( Chronic Kidney Disease ) 慢性腎臓病診療ガイドラインなどの診療ガイドラインに対応した尿沈渣検査の確立が,今,最も重要な視点と考えている.EBM により確立した診療ガイドラインにおいて認められるには,いまや職人の経験値では通用しない.

本稿ではこのような背景を考え,尿検査 ( 定性・尿沈渣・尿中有形成分情報 ) のあるべき位置付けと臨床検査技師の対応のポイントについて私見を述べてみたい.

Key Words

尿検査, 尿沈渣検査, 臨床検査情報, 尿沈渣中のオーパーツ