Sysmex Journal Web ※このコンテンツは医療従事者向けです

2001年Vol.2 No.2

総説

動脈硬化発症の分子機構

著者

祖父江 憲

大阪大学大学院 医学系研究科 神経細胞医科学

Summary

動脈硬化症は, 血管壁の増殖性・変性病変を主体とする血管壁肥厚により血管内腔の狭窄を来たす疾患である. しばしば血栓形成を併発し, 血管閉塞性の致死的病態に至る. 今日, 三大成人病と言われる心筋梗塞・脳卒中・癌の中で, 心筋梗塞と脳卒中はいずれも動脈硬化症を基礎疾患としたものである. 糖尿病においても動脈硬化症の併発は必至で, 糖尿病重篤化の要因となっている. これらの疾患は動脈硬化症による冠状動脈・あるいは脳血管・末梢血管の閉塞性機転により, 虚血・梗塞・出血を伴う重篤な病態に至る. また, わが国における老人性痴呆は血管性痴呆が優位を占め( 老人性痴呆患者の約60%が血管性痴呆と考えられている ), 欧米のアルツハイマー型痴呆優位とは異なっている. 現在の発症頻度から考えて20年後( 2020年 )の老人性痴呆患者はわが国で200 万人にも達すると推定されているが, この実に120万人は血管性痴呆によるものである. 医療が進歩し, 救命が飛躍的に改善される一方で, 急速に高齢化社会を迎えつつあるわが国にとって, 生として生ける人生をより充実したものにする quality of life( QOL )重視の医学・医療が今求められている.

本稿では, 動脈硬化発症の分子機構を解説し, その予防・診断・治療法開発への展望について述べる.

Key Words

血管平滑筋細胞形質転換, 血管内膜肥厚, 不飽和リゾホスファチジン酸