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2016年Vol.17 No.3

総説

心血管疾患におけるBNP とNT-proBNP 検査の有用性と今後の展望

著者

石橋 みどり

医療法人社団 誠馨会 新東京病院

Summary

BNP ( Brain Natriuretic Peptide: 脳性ナトリウム利尿ペプチド ( 以下,BNP )) はナトリウム利尿ペプチドファミリーの1つで,1988年,松尾久壽,寒川賢治,南野直人らの研究グループにより,ブタの脳から単離,同定された26個のアミノ酸からなるペプチドである1).その後,主に心臓から分泌されるペプチドであることが判明した2)

ナトリウム利尿ペプチドファミリーはANP (AtrialNatriuretic Peptide (以下,ANP )),BNP,CNP ( C-Type Natriuretic Peptide ( 以下,CNP )) の3種のペプチドが存在し,各ペプチドの分子内に類似環状構造を有する ( 図1).ANP は心房で,BNP は主として心室で合成され,現在は心不全の診断薬ならびに治療薬として臨床応用されている.

一方,CNP は1990年に発見された3).CNP は当初,脳から発見されたことから脳神経ペプチドとして機能していると考えられていた.しかし,その後,末梢での存在が明らかになり,血管壁の局所因子として平滑筋細胞の増殖抑制に関与すると考えられ,PTCA ( 経皮的冠動脈形成術) 後の血管内再狭窄の予防にCNP 投与が有効に機能することが期待されている4)

BNP は通常の状態では約70%が心室由来で,残りの約30%は心房由来とされている5)が,心房では顆粒として貯蔵されている.BNP,NT-proBNP は急性冠症候群 ( 以下,ACS ) 発症早期から血中濃度が上昇するため,ACS 診療に欠くことのできないマーカーとして現在,広く測定されている.ACS における血中濃度上昇の機序は,心筋の虚血ストレスまたは虚血による左室拡張末期圧の上昇により分泌が亢進すると推測され,ACS に止まらず,心筋ストレスマーカーとして位置付けられている.

Key Words

BNP, NT-proBNP, 心血管疾患, 生活習慣病