Sysmex Journal Web ※このコンテンツは医療従事者向けです

2013年Vol.14 No.2

論文

多項目自動血球分析装置XN シリーズWDF チャンネルにおける白血球出現位置の検証

著者

河内 佐和子, 高木 由里, 河野 麻理, 和田 淳, 森川 隆

シスメックス株式会社 学術本部 セルアナリシスセンター

Summary

WDF チャンネルは,多項目自動血球分析装置XN シリーズ ( 以下,XN シリーズ;シスメックス社 ) の新しく開発された白血球分類チャンネルである.WDF チャンネルでは,従来の多項目自動分析装置XE シリーズ ( 以下,XE シリーズ;シスメックス社 ) のDIFF チャンネルと同様に,界面活性剤と蛍光色素を含む専用試薬で処理した血球細胞の側方散乱光と側方蛍光の強度情報を,フローサイトメトリーの原理により取得し,その強度の差から各白血球を分類・計数している.XN シリーズのWDF チャンネルは試薬・ハードウェア・ソフトウェアの改良により,XE シリーズのDIFF チャンネルに比べてリンパ球と単球の分画能が向上している.今回我々は,各白血球がこれらのチャンネルで識別される理由を電子顕微鏡,共焦点レーザー顕微鏡を用いて形態学的に検証した.さらに,WDF チャンネルでリンパ球と単球の分画能が向上した理由を,両専用試薬の白血球への作用の違いから検討した.

まず始めに,健常者末梢血を用い,WDF スキャッタグラム上ではXE シリーズのDIFF スキャッタグラムに比べ,単球とリンパ球のクラスターの分画能が向上していることを確認した.次に,同じ健常者末梢血よりT リンパ球・B リンパ球・単球・好中球・好酸球を分離し,これらを汎用フローサイトメーターおよびXN シリーズにて測定して,各血球のWDF スキャッタグラム上での出現位置を確認した.さらに,両シリーズの測定 ( 反応 ) 条件と同じ条件下で,WDF 専用試薬またはDIFF 専用試薬で細胞を処理した後,共焦点レーザー顕微鏡にて染色強度を,透過型電子顕微鏡にて内部構造を,走査型電子顕微鏡にて表面構造を観察し,3D 測定レーザー顕微鏡にて細胞の大きさを解析した.

分離した各白血球は,WDF スキャッタグラム上で全血の場合と同じ位置に出現した.共焦点レーザー顕微鏡像のWDF 専用試薬による染色強度は高い順に,単球> T リンパ球> B リンパ球>好中球>好酸球であり,WDF スキャッタグラムの側方蛍光強度を反映していた.また,透過型電子顕微鏡像における両専用試薬処理後の細胞内部構造の残存度合いは大きい順から,好酸球>好中球>単球>リンパ球であり,両スキャッタグラムの側方散乱光強度を反映していた.また3D 測定レーザー顕微鏡で観察した両試薬処理後の各白血球の大きさは,小さい順にリンパ球,単球,好中球,好酸球となり,WDF サブスキャッタグラム ( SSC-FSC ) の前方散乱光強度の順序を反映していた.このことから,細胞内小器官の量や,細胞膜の界面活性剤への耐性が各白血球で異なるために,試薬反応後の蛍光強度,細胞形態の複雑さ,細胞の大きさに各白血球の違いが生じ,それぞれのクラスターを作り弁別されることがわかった.加えて,電子顕微鏡像の観察から,それぞれの専用試薬の白血球への作用の違いが確認され,WDF スキャッタグラムではDIFF スキャッタグラムに比べてリンパ球と単球の分画能が向上したことが明らかになった.

Key Words

XN シリーズ, WDF チャンネル, 分画能, 血球形態