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2013年Vol.14 No.2

総説

抗ミトコンドリアCK 活性阻害抗体を用いた新規CK-MB 活性測定試薬の基本性能と臨床的有用性

著者

星野 忠

日本大学医学部病態病理学系臨床検査医学分野

Summary

クレアチンキナーゼ ( creatine kinase: CK,EC 2.7.3.2 ) は,クレアチンとクレアチンリン酸のリン酸転移に関与する酵素で,エネルギー代謝の面で重要な役割を担っている.CK アイソザイムは, B ( brain ) サブユニットとM ( muscle ) サブユニットの2量体で構成され,CK-BB ( CK1 ),CK-MB ( CK2 ),CK-MM ( CK3 ) の 3種類が細胞質に存在する.その他に,ミトコンドリアには mitochondorial CK( MtCK ) が存在し, sarcomeric MtCK ( sMtCK ) とubiquitos MtCK
( uMtCK )の2つのアイソフォームがある.MtCK はミトコンドリア内膜の外側に8量体として存在しているが,血中では一部が2量体として共存している.

CK アイソザイムの中でCK-MB は,他の臓器に比べて心筋に高比率に存在することから,従来から急性心筋梗塞 ( acute myocardial infection: AMI ) の診断指標として用いられている.CK-MB 測定には,電気泳動法,免疫阻害法,蛋白定量法などがある.汎用の自動分析装置が普及しているわが国においては,迅速性,簡便性および検査コストが安価な面から免疫阻害法が多くの検査室で用いられている.しかし,免疫阻害法は血中にCK-BB,免疫グロブリン結合CK ( Macro CK type 1 ) や重合MtCK ( Macro CK type 2 ) が出現した場合,CK-MB 活性が偽高値となることが報告されている.Macro CK type 1 は悪性腫瘍,潰瘍性大腸炎などで出現する傾向が高いが,疾患特異性については明らかではない.一方, Macro CK type 2 は悪性腫瘍,肝硬変,ロタウイルス胃腸炎等でみられる.なお,Lee らは Macro CK の出現頻度について,Macro CK type 1 よりもMacro CK type 2 の方が多いと報告している.また, MtCK は健常成人および健常小児の血中にも常時存在するとの報告がある.

このような背景の中でわれわれは,従来法の CK-MB 活性測定試薬の感度,特異度の向上を図るにはMtCK 活性の影響を排除する必要があると判断し,ヒト sMtCK およびヒト uMtCK 活性を阻害する抗体の開発に取り組んだ.その結果,2種類の抗ヒトMtCK 活性阻害モノクローナル抗体 ( 抗MtCK 活性阻害抗体 ) の作製に成功した.この抗 MtCK 阻害抗体を組み込んだ新規のCK-MB 活性測定試薬は, 2008年8月にシスメックス (株) から「エルシステム・CK-MB MtO」として上市され,現在は「エルシステム・CKMB」として発売されている.また,同年の12月には (株) シノテストから「アキュラスオートCK-MB MtO」が上市され,現在はより試薬の安定性が向上した「シグナスオートCK-MB MtO」と並行発売されている.

本稿では,新規CK-MB 活性測定試薬の基本性能と臨床的有用性について,今日まで多くの施設で検討,評価された報告内容も含めて総括し解説する.

Key Words

CK-MB, ミトコンドリアCK, 免疫阻害法, 急性心筋梗塞, ROC 解析, カットオフ値, CK-MB/CK 活性値比