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2010年Vol.11 No.3

論文(転載)

妊娠期における赤血球内ヘモグロビン量の変化

著者

M. SCHOORL,D. van der GAAG,M. SCHOORL and P.C.M. BARTELS

Department of Clinical Chemistry, Haematology & Immunology, Medical Center Alkmaar

Summary

ヘモグロビン ( Hb ) 濃度の減少は妊娠 3 期によく認められる特徴であり,その原因の一つとして生理的な血液希釈が挙げられる.この血液希釈の程度が個体間および個体内で大きく変動するために Hb 値の変動が大きくなり,信頼性のある貧血のカットオフ値の確立が課題となっている.産科診療では,いくつかの診断ガイドラインが使用されている.貧血を識別する Hb 値として Koninklijke Nederlandse Organisatie voor Verloskundigen ( KNOV ) では 6.3mmol/L,世界保健機関
( WHO ) では 6.8mmol/L をそれぞれ定めており,それに続く鉄補給のための指標を規定している.
本研究の目的は,新しい赤血球パラメータ ( 特に網赤血球幼若指数[IRF],網赤血球ヘモグロビン等量[RET-He]) について詳細な知見を収集し,細胞内 Hb 量の分布および適切な Hb の識別値を確認することである.

RET-He は,網赤血球内の Hb 量の変化に関する短期的指標である.これに対して,亜鉛プロトポルフィリン ( ZPP ) は,赤血球 ( RBC ) の寿命に関わる長期的な情報を反映する.

ZPP は,鉄欠乏性赤血球産生 ( IDE ) を検出する適切な生物学的マーカーである.この値は,鉄ではなく亜鉛がプロトポルフィリンとキレート形成した程度を表す.亜鉛とプロトポルフィリンとのキレート形成は,マクロファージによる溶血以後の鉄の排泄を阻害し,恒常性を保つ機構である.したがって,非常に高感度な IDE の機能的指標であるといえる.

臨床での解釈は RET-He も ZPP と同様である. IDE の細胞に関する測定指標であり,単独では機能的鉄欠乏と真の鉄欠乏を区別することはできないが, ZPP が RBC を測定するのに対し,RET-He は網赤血球を測定するため,Hb 産生の短期的変化について,感度の高いマーカーとみなされている.

妊娠時には炎症の生物学的マーカーが生理的に増加する.特に妊娠 1 期および 3 期の増加は顕著である.血清フェリチンには急性相反応物質としての役割があるため,炎症中に増加する.このため,全身鉄貯蔵量が多く見積もられてしまうことがある.

機能的 IDE と真の IDE は相互排他的ではなく共存することもあり,特に鉄貯蔵量が枯渇した状態で低レベルの炎症が起こる妊娠後期には,共存の可能性が高いということを強調しておく.

本研究における ZPP/ ヘム比の結果に関しては, IDE の指標として,カットオフ値 > 75μmol/mol hemeであるという意見を採用した.

Note(s)

本稿はNed Tijdschr Klin Chem Labgeneesk. 2010 ; 35: 206-208. を翻訳・転載いたしました.