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2010年Vol.11 No.1

総説

微生物検査の精度管理 — 薬剤感受性検査 —

著者

小松 方

ファルコバイオシステムズ総合研究所 検査三課

Summary

臨床微生物検査室が行う一般的な薬剤感受性検査の精度管理とは,米国の Clinical Laboratory Standards Institute ( CLSI,旧 NCCLS ) が刊行している Quality control1)に基づいた方法を指す. この方法は,培養環境や培地性能の不備,あるいは測定する抗菌薬の抗菌活性の低下等の原因による最小発育阻止濃度 ( MIC ) の変動について,ATCC株 ( American Type Culture Collection から市販されている標準株 ) を用いて,あらかじめ定めた規定の MIC を示すか否かを確認することで,方法論上のエラーを発見する手法である. この Quality control は,希釈法における MIC値やディスク拡散法における阻止円径に対する精密性と正確性を管理する手法でもある.

Quality control を直訳すると「品質管理」と訳される. 「品質管理」とは,生産する製品や提供するサービスの品質をほどよく,一定に保つために行う企業の一連の体系を意味する. それだけではなく,商品の買い手である顧客が満足するものを提供するためにはどのような活動をすればよいかを PDCA サイクルを回しながら系統立てて考えることにある. この観点で薬剤感受性検査の品質管理を考えると,CLSI ガイドラインに記載された ATCC株を使用した Quality control の実施だけでは目的を達成することはできない. すなわち臨床微生物検査室は以下の事項を思考の根本に置いておく必要がある. 『検査報告書 ( 商品 )の品質をほどよく一定に保つ体系を確立し,買い手である臨床医を満足させるために,検査室はどのよに努力すべきかを考え,検査報告書の内容について臨床医が下した診断,治療薬選択およびその効果と一定の相関が保たれるように,PDCA サイクルを回しながら改善していかなければならない』.

本稿では,上述した内容を念頭におきながら真に検査室が実施すべき薬剤感受性検査の精度管理をどのように実施すべきか解説する.

Key Words

CLSI, EUCAST, 検査前工程管理, 検査後工程管理