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2009年Vol.10 No.2

総説

伴侶動物医療における血液凝固検査の現状と課題

著者

鬼頭 克也

岐阜大学 応用生物科学部 獣医学講座 臨床獣医学系 獣医寄生虫病学教室

Summary

イヌやネコなど,伴侶動物の医療水準が向上し,これまでは診断や治療が難しかった疾患に対しても適切な処置が行えるようになった. しかし,止血異常については,未だに正しい診断や治療が行われているとは言い難い. これは,血液凝固検査が臨床の現場に普及していないことが主たる原因であると考えられる. では,なぜ血液凝固検査は普及しないのであろうか. この答えとして,「検査の必要性を感じないから」,「検体の採取が煩雑で面倒だから」,「院内で検査を維持するにはコスト負担が大きいから」,「院外の検査では結果が迅速に得られずかつ信頼性がないから」などの臨床獣医師の言葉が思い浮かぶ. これらは血液凝固検査に対する理解不足-臨床獣医師の問題,に加えて動物検体を扱うのに適した検査システムが確立されていないこと-検査方法の問題,に起因している.

そこで本稿では,まず最初に,伴侶動物医療における血液凝固検査の特殊事情について整理し,この分野にはどのような検査システムが適するのかを考察した. 次いで,我々の臨床データの一部を紹介して,血液凝固検査が臨床の現場でいかに重要で必須の検査であるかを示した. また,血液凝固検査について正しい知識を持っていただけるよう止血異常の診断手順をできるだけわかりやすく解説した. そして最後に,血液凝固検査の今後の課題についてまとめた. 本稿によって臨床獣医師が血液凝固検査についての理解を深める契機となれば幸いである.

Key Words

出血傾向, ネコ, イヌ, 血液凝固検査