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血液による簡便なアルツハイマー病診断法の創出に向けた学術報告

~第12回アルツハイマー病臨床試験会議(CTAD)における発表内容について~

 シスメックス株式会社(本社:神戸市、代表取締役会長兼社長 CEO:家次 恒 以下「シスメックス」)とエーザイ株式会社(本社:東京都、代表執行役CEO:内藤 晴夫 以下「エーザイ」)は、2019年12月4日から7日まで米国カリフォルニア州サンディエゴで開催された第12回アルツハイマー病臨床試験会議(Clinical Trials on Alzheimer's Disease: CTAD)において、両社が共同で開発を進めている、血液を用いたアルツハイマー病(以下「AD」)診断法に関する最新データとして、シスメックスのタンパク測定プラットフォームである全自動免疫測定装置HISCL™シリーズを用いて測定した血漿中の脳由来アミロイドベータ(以下「Aβ」)から、脳内アミロイド病理を把握できる可能性が示唆されたことをシスメックスが代表して発表しましたのでお知らせします。

 認知症の当事者数は、グローバルで2030年に8,200万人、2050年には1億5,200万人に達し、医療費・介護費・生産性低下などによる社会的コストは2030年で220兆円ともいわれています※1。日本における認知症の当事者数は、2012年に約462万人、2025年には730万人に達し※2、社会的コスト対GDP比は2025年で4.1%※3(25.8兆円※4)になるといわれています。なかでも、ADの当事者数は、認知症当事者数の60%以上を占めています※2
ADは、病態生理学的には、神経細胞外へのAβ凝集体の蓄積が引き金になって、神経細胞内にタウ凝集体が蓄積し、その結果シナプス障害や神経細胞死に至る疾患と考えられます。これらの脳内変化により、認知機能障害や精神症状・行動障害を引き起こします。つまり、ADでは、認知機能障害が現れる前から脳中にAβが凝集・蓄積することが知られており、Aβを標的とする治療法では、早期診断、早期介入がより有効性を高めると考えられます。現在、脳内アミロイド凝集体の検出方法としてアミロイドPETと脳脊髄液(CSF)中のAβ1-42/Aβ1-40比が用いられていますが、アクセス面・費用面・身体面で当事者様への大きな負担となっています※5
 
 シスメックスとエーザイは2016年2月に、認知症領域に関する新たな診断薬創出に向けた非独占的包括契約を締結し、互いの技術・ナレッジを活用し、認知症の早期診断や治療法の選択、治療効果の定期的確認が可能な次世代診断薬の創出を目指してきました。
 両社は2019年7月に開催されたアルツハイマー病協会国際会議(Alzheimer's Association International Conference: AAIC)2019において、CSF中と血漿中のAβ1-42/Aβ1-40比の相関性(スピアマン順位相関係数(rs※6=0.502、p<0.001)から、血漿中Aβ1-42/Aβ1-40比を測定することにより脳内アミロイド病理を把握できる可能性が示唆されたことを報告するとともに、血漿中のAβ1-42/Aβ1-40比とアミロイドPETとの関連について検討を進めてきました。
 CTADでは、両社が共同で開発している血液による簡便なアルツハイマー病診断法の創出として、HISCLTMシリーズを用いて測定した血漿中のAβ1-42/Aβ1-40比と、アミロイドPET判定結果の的中率を検証した結果から、血漿中のAβ1-42/Aβ1-40比から脳内アミロイド病理を把握できる可能性が示唆されたことに加え、HISCLTM測定系が血漿中のAβを正しくとらえていることを検証するための手法について発表しました。
 
 シスメックスとエーザイは、認知症の予防および治療に対する新しい診断技術の創造に取り組み、医療の発展と進化に貢献することで、当事者様とその家族のQOL向上の実現を目指します。

 【データシート】

 血液診断
P75

全自動イムノアッセイシステム(HISCLTMシリーズ)で測定した
血漿Aβ1-42/Aβ1-40比によるアミロイド病理の予測
ポスター発表:12月4日(水)~12月5日(木) 
 

 P75では、血液を用いた簡便なAD診断法の創出に向けて、全自動免疫測定装置HISCLTMシリーズを用いた自動化タンパク質アッセイシステムにより測定した血漿中Aβ1-42/Aβ1-40比と、アミロイドPET(陽性・陰性)の的中率に関するROC(Receiver Operating Characteristic)解析を行った結果を発表しました。本アッセイシステムは、10‐30µLの少量のサンプル量および17分の測定時間で全自動での免疫測定が可能であり、血漿中のAβを十分な感度と高い信頼性をもって測定することができます。また、P81で報告している免疫親和性法による濃縮とLC-MS / MSによるAβの測定とHISCLTMシリーズによるAβ測定に高い相関性を確認しました。
 HISCLTMシリーズを用いて、アミロイドPETの結果が付随する軽度認知障害(MCI)およびAD当事者様の血漿サンプル(192例)を評価した結果、血漿中Aβ1-42/Aβ1-40比とアミロイドPET(陽性・陰性)の結果を感度73%、特異度71%(AUC0.74)で判定できること、また、年齢やADの発症リスクを大幅に上昇させるハイリスク遺伝子であるAPOE4を因子として追加した解析により判別能が改善される(AUC0.82)ことを確認しました。このことより、血漿中Aβ1-42/Aβ1-40比を測定することにより、脳内アミロイド病理を把握できる可能性が示唆されました。今後の臨床応用に向けて、サンプル測定を継続して実施する予定です。
 

 

 血液診断
P81

免疫親和性法による濃縮とLC-MS / MSによる
血漿アミロイドベータ測定の臨床的有用性
ポスター発表:12月4日(水)~12月5日(木)
 

 P81では、質量分析法を用いた高感度ペプチド(Aβ1-42とAβ1-40)測定技術に関する検討を行った結果を発表しました。本技術では、250µLの少量のサンプル量に対し、液性検体中のペプチドを2時間で測定することが可能であり、実際にCSFや血漿中の微量なAβ1-42とAβ1-40を測定することが可能であることが確認されました。純系での本技術の測定性能(ダイナミックレンジ、感度、再現性等)を発表したほか、認知機能正常者、MCIおよびAD当事者様(計44名)のCSFと血漿について、Aβ1-42とAβ1-40を測定し、CSF中Aβ1-42/Aβ1-40比と血漿中Aβ1-42/Aβ1-40比が良好な相関を示すことを確認しました。
【注釈】
  ※1 World Alzheimer Report 2018
  ※2 厚生労働省資料「認知症施策の総合的な推進について」
  ※3 平成26年度 厚生労働科学研究費補助金 統括・分担研究報告書「わが国における認知症の経済的影響に関する研究」
  ※4 大和総研 日本経済中期予測(2018年2月)を参考にシスメックスが試算
  ※5
Aβはアミロイド前駆タンパク質から切り出されて生成するアミノ酸残基からなるペプチドであり、40残基からなるAβ1-40が多くを占めますが、Aβ1-40はAD進行によって大きく変動しません。一方、42残基からなるAβ1-42は凝集性が高く、ADの初期段階からCSF中Aβ1-42の減少が見られます。Aβの絶対値は、個体差および個体内変動があるため、CSF中のAβ1-42/Aβ1-40比がアミロイドPETと高い相関を示すことが報告されています。
  ※6 相関係数は2つの量的データ分布から2つのデータ間の関連性の強さを示すものです。本解析では、順位データから求められる相関の指標であるスピアマン順位相関係数(rs)を算出しています。
 
 以上
  • プレスリリースに掲載されている情報は、発表日現在の情報です。
    その後予告なしに変更されることがございますので、あらかじめご了承ください。

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