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2010年Vol.11 No.3

総説

CLSI における Streptococcus pneumoniae のブレイクポイント変更とその影響

著者

佐藤 かおり

近畿大学医学部附属病院

Summary

本邦の臨床微生物検査室の多くは,抗菌薬感受性検査の結果をCLSI ( Clinical and Laboratory Standards Institute ) のブレイクポイント ( BP ) に基づいて判定・報告していると思われる.実際の調査結果は存在しないが,日本臨床衛生検査技師会の外部精度管理調査ではCLSI のBP を基に評価を実施していることからも,このことは明らかであろう.

CLSI では微生物の抗菌薬耐性化を背景に,臨床効果や安全性を考慮したBP の改訂が継続されている.近年はStreptococcus pneumoniae のpenicillinや腸内細菌群のcephalosporin 系抗菌薬など大きな改訂が続いている.

表1にS. pneumoniae における新旧のpenicillin BPをまとめた.M100-S17までの脚注には髄膜炎治療時のBP であること,肺炎の治療時には中間を感性と判定し,MIC1μg/mL 以下の株はpenicillin で治療することとある.このBPは世界各国で広く用いられ,実際のところ臨床分離株の大半は非髄膜炎由来の株であるにもかかわらず,多くの大規模サーベイランスでもこれを基にpenicillin 耐性S. pneumoniae ( PRSP ) として分類・報告されてきた.

しかし,脚注部分があまり浸透していないと考えたCLSI は,2008 年のM100-S18において投与方法と感染症により3 種類に分類してそれぞれ異なるBP を提案し,M100-S19にて承認した.本来, CLSI のBP は細菌学的BP であり,細菌ごとに1 種類のBP が設定されていたが,近年のPK/PD を治療に反映させる風潮から臨床的BP も併せて設定されるようになってきた.

今回の改訂の最大の影響は,臨床分離株のMIC 測定結果が同じでもカテゴリー判定が異なる点であろう.そのため検査室においては過去の疫学統計データの連続性が失われ,臨床においてはカテゴリーの解釈を切り替える必要が生じた.本稿においては過去の疫学統計にどのような変化が生じたのか,近畿耐性菌研究会のサーベイランス結果と本改訂への対応状況について述べたい.

Key Words

CLSI, Streptococcus pneumoniae, ブレイクポイント