




はじめに どのお子さんにとっても、乳幼児期は感染症との戦いが続く時期です。 現代医療の粋を尽くしても、成人に至るまでにまったく感染症にかからない人生はありません。 かかっても抗生物質で治療が可能な感染症もありますが、(医師が)抗生物質を処方しすぎると薬が効きにくい病原体(耐性菌)が増え、治療ができなくさえなってしまいます。 今日では、多くの感染症がワクチンによって予防可能になってきました。 従って、ワクチンで予防可能な感染症については、積極的に適切な時期にワクチン接種を受けることをおすすめします。 お子さんの健やかな発育に本冊子が少しでもお役に立ちますように・・・・ ※本冊子は母子手帳とセットでお読みいただくと、よりわかりやすくなると思います。 公立大学法人横浜市立大学附属病院 感染制御部・部長 日本小児科学会認定専門医 日本感染症学会認定医・指導医 満田 年宏
1 感染症ってなあに? 細菌やウイルスが引き起こす病気です 感染症とは、細菌やウイルスなどの病原体が生物に寄生して引き起こす病気です。咳やくしゃみ、鼻水などの症状が出る風邪や、熱が出るインフルエンザ、病原体で汚染された物を食べることで吐き気や下痢などの症状が出る食中毒も感染症の一種です。 感染症を引き起こす病原体には、主にウイルス、細菌、真菌(かび)、マイコプラズマ、クラミジアなどがあり、種類によって大きさや増え方、治療方法も違います。
2 乳幼児と感染症 赤ちゃんの免疫システム 生まれたばかりの赤ちゃんは抵抗力が弱いため、感染症から身を守る予防システムが備わっています。お母さんの胎盤を通じて、病原体と戦うための「免疫グロブリンG」という物質(抗体)をもらって生まれてくるのです。さらに生後1 週間目くらいまでは、母乳にも「免疫グロブリンA」が豊富に含まれており、赤ちゃんの健康を守っています。 お母さんからもらった免疫は生後6 か月ほどでなくなりますが、この頃までには赤ちゃんも自分の体内で病原体を記憶できるようになり、免疫グロブリンも十分に作れるようになっています。そのため、生後6か月以降にかかった感染症は、発症を繰り返しにくくなるのです。 ※ お母さんがかかったことがなく有効な免疫グロブリンが作られていない場合、母子間での免疫の移行は得られません。
感染症の経過 病原体に感染したからといって、すぐに症状が出るとは限りません。病原体の数がまだ少なく、症状がほとんど出ない時期を「潜伏期(せんぷくき)」といいます。 病原体が体内で増えると、いよいよ症状があらわれ始めます。全身性の感染症の場合は、しっかりとした症状が出るまで時間がかかるため、この時期を「前駆期(ぜんくき)」と呼ぶこともあります。一般的にウイルス感染症は全身性感染症になりやすく、前駆期がみられます。たとえば、インフルエンザで、発熱する前日に体がだるくなったり、筋肉痛があらわれたりするのは前駆期症状の一種です。 やがて、病原体と戦うために体内でさまざまな生理活性物質が作られますが、これらの働きをよくするために体温を上げる反応が「発熱」です。 熱や発疹(ほっしん)など、誰にでもわかる症状がしっかりある時期が「罹病期(りびょうき)」です。その後、目立った症状がなくなっても体はすぐに本調子には戻りません。この時期を「回復期(かいふくき)」と言います。 咳や鼻水、発熱、嘔吐・下痢などの感冒様症状が出たら、手帳に熱の記録(解熱剤の使用時期やトイレの回数なども書き込むとなお良い)をつけておき、受診時に医師に見てもらうと診断に役立ちます。
3 年齢別・季節別にみた感染症 年齢別にみた感染症 乳幼児期の代表的な感染症に、RS ウイルスによる冬場の「細気管支炎(さいきかんしえん)」があります。特に低体重出生児や、生まれつき心臓に病気のある子どもの場合は重症化しやすいので、予防薬による治療を行う場合もあります。 一般的に乳幼児期は細菌感染症にかかりやすく、急性中耳炎や化膿性扁桃腺炎はその代表格です。6 歳以降になると、ウイルスやクラミジア、マイコプラズマといった細菌以外の病原体による感染症にかかる割合が増えてきます。 学童期以降になると、呼吸器・消化器の感染症の多くはウイルスによるものとなり、抗菌薬(抗生物質)では治療できない場合が多くなります。 病児保育や病後保育など、子どもが体調不良でも安心して預かってもらえるケア環境が必要とされていますが、いつでもすぐに利用できるほど普及したとは言いがたい状況が続いています。 季節別にみた感染症 夏には腸の中で増えるウイルスによる感染症が、冬には冬場に増殖しやすいウイルスによる感染症が多くなります。 また、春と秋は喘息の症状が悪化しやすい時期ですが、喘息を持っている子どもの場合、呼吸器感染症で、より喘息発作がひどくなる場合があるので注意が必要です。
4 感染を予防するために ワクチン(予防接種)による予防 乳幼児期にかかりやすい感染症には、ワクチンで予防できるものと、ワクチンで予防できないものがあります。ワクチンで予防できる感染症には、治療が難しい病気や重大な病気が多く、感染すると命に関わったり、重い合併症や後遺症が残る可能性があります。これらの危険から子どもを守るためにも、しっかりとワクチンを接種しておくことが大切です。 ワクチンでは予防できない感染症もありますが、感染経路や予防方法を知っておけば、日常生活の中の注意で防ぐことが可能です。
「定期(勧奨)接種」と「任意接種」 予防接種には、「定期接種」と「任意接種」の2 種類があります。 「定期接種」は法律で定められた年齢内なら無料(自治体によっては一部負担)で受けられる予防接種で、「任意接種」は国の予算の対象になっていないため、原則的に自己負担で受ける予防接種です。しかし、重篤な合併症のリスクを軽減するためにはどちらも受けておく方がよいでしょう。自治体によっては「任意接種」にも費用助成を設けている場合があります。 また、定期接種に含まれる予防接種でも、法律で定めた期間以外に接種する場合は費用が自己負担となります。 ヒブ感染症と肺炎球菌感染症 ヒブ(Hib:b 型ヘモフィルス・インフルエンザ菌)や肺炎球菌は、小児に重い感染症である細菌性髄膜炎を引き起こす菌です。 ヒブや肺炎球菌には、薬が効かない耐性菌が多く、治療が難しい場合もあります。もし細菌性髄膜炎にかかった場合、発達・知能・運動障害などのほか、難聴(聴力障害)など脳の後遺症が30%くらいの確率で残るほか、死亡率も5 ~ 10%あります。 欧米では、ほぼ全員にヒブや肺炎球菌のワクチンが接種されているのでこれらの細菌による髄膜炎の発生が非常に少なくなっていますが、残念ながら日本ではまだヒブと肺炎球菌のワクチンは「任意接種」に含まれています。ワクチン接種は、できるだけ早い時期に済ませましょう。 お役立ちサイト紹介(1) ワクチンのことを知ろう! ◎ KNOW ★ VPD! VPD を知って、子どもを守ろう。 http://www.know-vpd.jp/ ワクチンで防げる病気(VPD:Vaccine Preventable Diseases) についての知識や、予防接種のスケジュールもわかりやすく紹介されています。 ◎国立感染症研究所感染症情報センター:予防接種のページ http://idsc.nih.go.jp/vaccine/vaccine-j.html PC サイト 最新のワクチン接種時期の表が便利です。 ◎武田薬品工業:予防接種・ワクチンのおはなし http://www.takeda.co.jp/pharm/jap/vaccine/index.html PC サイト 予防接種スケジューラーが便利です。
5 日常の感染対策 感染症を防ぐために 流行のピーク時は人ごみを避け、手洗いやうがいをこまめにするなど、日常的な予防を心がけましょう。正しい手洗いに必要な時間はわずか1 分ほどです。 (1) おねがいのポーズ 両手の手のひらをよくこすり合わせる (2) カメのポーズ 手の甲をよくこする (3) お山のポーズ 指の間を十分に洗う (4) おおかみのポーズ 指先と爪の裏側を洗う (5) バイクのポーズ 親指を手のひらで包んでねじるように洗う (6) つかまえた! のポーズ 手首をよく洗う お役立ちサイト紹介(2) 楽しく手洗いをしよう! ◎花王あわあわ手洗い教室 http://www.kao.co.jp/biore/biore-u/handsoap/index03.html 楽しく手洗いができる、「あわあわ手洗いのうた」が動画で紹介されています。
咳エチケット (1) 咳・くしゃみがでるときは、他の人にうつさないためにマスクを着用する。マスクを持っていない場合は、ティッシュなどで口と鼻を覆い、他の人から顔をそむけて1.5m 以上離れる。それもない場合は,肘でV の字を作り口と鼻を覆う。 (2) 鼻汁・痰などを含んだティッシュはすぐにゴミ箱に捨てる。 (3) 最後に手洗いも忘れずに! 食中毒を防ぐために 梅雨どきや夏場は、家庭で食中毒が起こりやすくなります。食品を扱うときは十分注意しましょう。 [食中毒を防ぐ注意点] ・ 生肉、生卵、刺身などの生ものやハチミツは乳幼児に食べさせない。 ・ 調理時、食前、トイレの後、オムツ替えの後、ペットを触った後などには丁寧に手を洗う。 ・ 食品はよく加熱する。 ・ 調理器具はこまめに消毒し、乾燥させて保管する。
症例別・ホームケアの例 熱があるとき ・ 発熱すると水分が失われやすくなります。脱水症状を防ぐために市販の経口補水液※などでこまめに水分を補給しましょう。このとき、低血糖を防ぐためにダイエット飲料は避けましょう。 ・ 暑がる場合はいつもより薄着にし、汗をかいたら着替えさせましょう。 ・ 全身が熱いときは小さな氷のうをタオルで覆い、首の両脇や脇の下、そけい部(またの付け根)に添えて冷やしましょう。太い血管に近いので効果的に放熱できます。 嘔吐があるとき ・ 嘔吐した後は、口の中に嘔吐物が残っていないか確認しましょう。 ・ 脱水症状になると危険なので、ぐったりしていたり、下痢を伴う場合は、早めに医師の診察を受けましょう。 ・ 普段よりおしっこの量や回数が少ないのは脱水の兆しです。体重も脱水の目安になります。普段より5%以上体重が減り始めたら、早めに医療機関を受診しましょう。 下痢をしているとき ・ 市販の経口補水液※などをこまめに与え、脱水症状になるのを防ぎましょう。 ・ 食欲がある場合は、消化のよい食べ物を与えましょう。 ・ 便に血や膿が混じっていたり、嘔吐や発熱を伴っていたり、お腹を痛がる場合には速やかに医師の診察を受けましょう。 発疹があるとき ・ 掻きむしるのを防ぐため、爪は短く切っておきましょう。 ・患部には触れないようにしましょう。 ・ 家族でタオルなどを共有しないようにしましょう。 ・ 完治するまではシャワーにし、石けんをよく泡立ててやさしく洗いましょう。 ・ 十分に石けんを洗い流した後、タオルで軽く押さえるように水分を拭き取り、処方されている場合は塗り薬をつけましょう。 ※糖分が入っていて電解質等が調整されている市販飲料です。市販の経口補水液には以下のようなものがあります。 ・経口補水液 オーエスワン®シリーズ(大塚製薬) ・アクアライト®ORS(和光堂) ・アクアサーナ®ORS(森永乳業)
6 お医者さんへのQ&A Q 病院に行くか行かないかはどのように判断すればよいですか? ・ 主治医を決め,乳児検診や予防接種などで受診するときに、対応方法を指導してもらいましょう。 お役立ちサイト紹介(3) ◎厚生労働省の小児救急電話相談事業 http://www.mhlw.go.jp/topics/2006/10/tp1010-3.html PC サイト 小児救急に関する電話相談があります。 ◎兵庫県立柏原病院の小児科を守る会 http://www.mamorusyounika.com/chart6.pdf PC サイト 受診の目安が分かりやすく図解されており、無料でダウンロードできます。 Q子どもへの正しい薬の飲ませ方を教えてください。 ・ 日本小児科学会認定小児科専門医を受診しましょう。 地域によっては、専門医が近所にない場合もありますが、その場合も小児科専門医のいる医療機関と連携がとれている診療所の受診をお勧めします。 ■ POINT 小児科専門医の一覧はサイトで公開されています。 http://www.jpeds.or.jp/pdf/meibo_senmoni.pdf ・ 市販薬はできるだけ避けましょう。 市販薬の中には今お子さんにある症状以外の症状にも対応するための薬が入っている場合が多く,多種の薬剤を少量服用することになり,副作用のリスクと効果のメリットのバランスを考えると,個人個人のお子さんの状態に合わせた薬の方が望ましいのです。 ・ 大人に処方された解熱剤は絶対に使用してはいけません。 小児に使用できる解熱剤はアセトアミノフェンだけです。小児の薬は体重に応じて処方されています。兄弟でも年齢、体重が違えば処方量も変わります。 ・ 医師に処方された量、服薬の間隔を守りましょう。 短時間で大量の薬剤を服用すると中毒症状が出る場合があり危険です。 ・ 処方された薬の服用を途中でやめてはいけません。 抗生物質など、薬の成分によって、途中で服用をやめると治療に支障が出るものがあります。医師の指示した服薬期間,服薬の間隔を守りましょう。発疹や下痢など副作用が心配な場合には,医師に問い合わせましょう。 ■ POINT ただし、咳や鼻水などの症状を緩和するための対症療法が目的の薬の中には、症状が緩和されれば途中でやめても治療に影響しないものがあります。医師の指導のもとで対応して下さい。 ・ もらって余った薬は捨てましょう。 水薬は水で希釈すると防腐効果がなくなります。冷蔵しても長期保存は避けましょう。粉薬は半年程度保存がききますが、子どもの体重が増えた場合、十分な効果が出なくなる場合があります。基本的に長期保存は避けましょう。






